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妊娠等と不利益取扱い

妊娠を理由とする雇止め

【事件名】Y幼稚園仮処分事件

浦和地裁:1973.3.31

事件の概要

幼稚園に1年契約で雇用される教諭2名は、複数回契約更新をされた後、妊娠を理由に雇止めされた。教諭らは、妊娠・出産を理由とする雇止め(実質解雇)は無効であるとして、教諭としての地位の保全と賃金の仮払いを求める仮処分を申請した。これに対し幼稚園側は、幼稚園教諭は肉体的に激しい労働を要求されることから、妊娠・分娩など安静を要する身体的機能と両立しないこと、法は出産女性を保護する立場にあるが、このことは小規模な経営主体の全面的負担で行われるべきではないこと、売手市場にある幼稚園教諭は再就職も容易であることを挙げて雇止めの正当性を主張した。

決定要旨

決定では、幼稚園教諭の職務にはある程度の体力を要求される一方で豊富な経験も要求されることから、幼稚園が大学新卒者を中心とした若い教諭による教育体制をとる必然性もないとの判断を示した。その上で「女性である限り、妊娠・出産は誰でも経験することであり、しかもそれなくしては社会も国家も成り立ち得ない」と非常に大上段に構えた後、「それ故、女性が労働者として受け入れられる場合には、母性としての機能が十分に保護されなければならず」「使用者はそれにより蒙る不利益を受忍しなければならず」「予め女子労働者を解雇することによりその受忍義務を回避することは、労働基準法65条(産前産後休業)をかいくぐるものとして許されない」との判断を示した。更に、「教諭が休業を取ることによって園児に少なからぬ影響があるとしても、代替者を出産休暇前に付ける等の方法によって弊害を十分に防止し得ることなどに鑑みれば、幼稚園における教諭としての職務の特質も、妊娠・出産を解雇の理由とすることの合理性は認め難い」との判断を示し、教諭らの地位の保全と賃金の仮払いを認めた。

解説

本件における幼稚園側の主張は、要するに、幼稚園教諭は肉体的に厳しい仕事であり、辞めても直ぐに再就職できるという理由で、小さな幼稚園では学校卒業後の若い時期だけ勤務させ、妊娠すれば退職させても良いと堂々と主張していますが、男女雇用機会均等法の施行前(同法の施行は1986年4月)とはいえ、事業主の本音の主張には驚かされます。

現在では、男女雇用機会均等法が施行され、働く人が性別により差別されることなく、かつ、働く女性が母性を尊重されつつ、その能力を十分に発揮できる雇用環境を整備することは、我が国が将来にわたって経済社会の活力を維持していく上で重要であるとの認識が定着してきています。「妊娠、出産等を理由とする不利益取扱い」は許されないものであることを今一度留意する必要があります。

著者:君嶋 護男(元労働大学校長)

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