Q&A

働く女性と企業の担当者の方双方の疑問にお答えします。5つのカテゴリーに分かれています。

1.カラダ

骨粗しょう症にならないためには、どうしたらいいですか?働く女性
"オフィスワークで座りっぱなし" は骨粗しょう症のリスクが加速する
働く女性はオフィスワークの方も多く、最近ではリモートワークの増加により、通勤時の移動もカットされ、気づけば全く歩いていない…なんて事も珍しくありません。 自治体で行われる検診などを活用しながら、女性特有の骨量の変化を把握して、早い段階から対策をはじめましょう。

食事・刺激・日光浴の3本柱で骨量低下へ対策を!
骨粗しょう症は、男性よりも女性に多い事が特徴です。これは、女性ホルモンの分泌量の低下により、骨の新陳代謝のバランスが崩れるからです。

食事からは骨の土台をつくる、たんぱく質/骨を強化するビタミンD・カルシウムを補いましょう。毎食片手ひと盛りのタンパク質食材(お肉お魚・卵・大豆製品)を揃えてみましょう。 まずは、この目標量に対して日々どのくらいご自身が補えているのか?を振り返ってみてください。 少ないと感じた方は、少しずつ量や内容を見直していきましょう。

おやつタイムに、ヨーグルトやチーズ・カフェラテのミルクから、たんぱく質とカルシウムを、ビタミンDを補える魚・卵はたんぱく質も一緒に補給できるのでオススメです。 しらすやししゃもなど、まるごと食べられるお魚は、カルシウムも豊富です。きのこはビタミンDが豊富なので、 お味噌汁や和物などに積極的にプラスしてみましょう。

ビタミンDは、食事から補うだけではなく、日光浴による皮膚での活性化が必要な栄養素。晴れた日は日光浴と骨への刺激、運動不足解消を兼ねて、ランチタイムに外へ出る・休日はウィンドウショッピングや緑が 多い公園をお散歩などもオススメです

食事・運動・日光浴で、トータル的な骨の強化と骨粗しょう症予防を心がけていきましょう。また、骨粗しょう症が心配な方は、医療機関を受診しましょう。

回答者:豊永彩子(管理栄養士)
HPVワクチンは打ったほうがいいですか? 働く女性企業担当
HPVワクチンは、子宮頸がん全体の50~70%の原因とされるヒトパピローマウイルスの持続感染等に対して予防効果をもつワクチンです。 現在、定期接種化されているものとしてサーバリックスとガーダシルの2種類のワクチンがあり、 これまで、ヒトパピローマウイルス感染やがんになる手前の異常(異形成)を90%以上予防したと報告されています。 また最近、海外の研究において、子宮頸がんの発症に対する有効性も報告されています。定期接種化後に接種後の長引く痛みなどが報告され、 厚生労働省では、平成25年からHPVワクチンの積極的な勧奨を控えておりましたが、 ワクチンの安全性・有効性に関して国の審議会において国内外の最新の知見等を踏まえて専門家の議論を行ってきた結果、 「ワクチンの安全性に特段の懸念は示されていない」とされ、令和3年11月に積極的な勧奨の差し控えを終了し、 令和4年4月から個別の対象者への予診票などの送付を再開することになりました。 なお、現在でも定期接種の対象であり、対象者は、公費で接種できます。 現在、小学校6年~高校1年相当の女子が対象となっていますが、積極的な勧奨が差し控えられていた間に接種の機会を逃した方に対して、 公平な接種機会を確保する観点から、時限的に、従来の定期接種の対象年齢を超えて接種を行うことについて、議論しており、 今後その対象者や期間等についてお示しすることとしています。実際に予防接種を受ける際は、 ワクチンの有効性とリスクを十分に理解した上で、受けるかどうかご判断ください。

予防接種法に基づくワクチンの接種は、地域の実情に合わせて各市区町村が実施しています。 お住まいの地域での実施方法や、接種の詳細などについては、お住まいの市区町村の予防接種担当課にお問い合わせください。

また、ワクチンは全ての高リスク型HPV感染は予防できないため、子宮頸がん検診も受診し、子宮頸がんに対する予防効果を高めることも大切です。 働く女性にとって、予防に努めることが大切となります。
HPVワクチンの詳細はこちら
そもそも月経ってどんなものですか?(男性向け)企業担当
男性の方々には、「月経」と言われても、何となく想像はできるけれど、よく分からない、という方が多いと思います。小学生の頃、体育の授業で、男女に分かれて、女子生徒は教室に残され、男子だけでドッジボールをしていた、というような記憶がある方は、おられるでしょうか? 男子がドッジボールに興じている間、女子生徒は、月経について、話を聞いていました。

さて、そもそも、月経とは何か、というと、少しややこしいのですが、以下のような現象です。頭の中の、視床下部(ししょうかぶ)の働きによって周期的なホルモンの変化が起こることにより、卵巣から排卵が起こり、それに伴い、子宮の中の膜が妊娠に向けて厚くなり、妊娠が成立しない場合に、その膜が血液と共に体外に排出される、というのが、月経です。本人の意思と関わらず、出血するため、生理用品で対処することが必要です。

最初に月経が始まる時を「初潮(しょちょう)」あるいは「初経(しょけい)」と呼びますが、平均は12歳と言われています。突然、出血が起こることになりますので、びっくりしないように準備する目的で、小学生の内に学校で説明する場合が多いようです。排卵の周期に伴い、月経の周期は、通常25~38日で、約1か月に1回、起こります。出血(月経)の期間は、通常5~7日です。

周期も期間も、出血の量も、個人差が多いのですが、少な過ぎる場合や多過ぎる場合は、何らかの病気である可能性もあります。月経の時には、腹痛、腰痛、頭痛を伴うことが多いのですが、痛みの程度や期間も、人によりさまざまです。月経の2~3日目に量が多く、痛みもひどい、という方が多いようです。月経痛のために仕事ができない人を対象として「生理休暇」という制度もあります。(労働基準法第68条)これは会社の就業規則などに関係なく、女性であれば誰でも取得できる制度です。

なぜ、女性だけが、月経の処理をし、痛みに苦しまなければならないのか、男性は月経がないので、楽でずるい、といった話を思春期の時期にした女性は多いようです。

回答者:星野寛美(産婦人科医師)
生理痛なんて市販薬を飲めば我慢できるのでは? 働く女性企業担当
生理痛は個人差が大きく、生理の時、全く痛みを感じない、という方もいます。ところが、市販の鎮痛剤を最大量飲んでも、さっぱり効かない、という方もおられます。「痛みに弱い」とか「痛みに強い」とか表現する場合がありますが、我慢ができるものなのかどうかは、客観的に判断することができません。生理痛がひどくて、鎮痛剤も効かなかったと訴える方に、ホルモン剤(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤:LEP)を使って頂くと、「痛みがなくて、快適!」とおっしゃるので、やはり我慢ができないほどの痛みであったのだ、ということが確認できます。

「市販薬を飲んでも生理痛が治まらず、仕事を休むのは、やる気がないからだ」などと判断する上司や同僚が、時折いるようですが、やる気があっても痛いものは痛くて休まないわけにはいかない方がいると思います。痛みに苦しむ方には、クリニックなど、医療機関で適切な治療を受けることを勧めて頂きたいと考えます。

生理痛の原因は、子宮を収縮させる物質が多い、とか、月経血の排出路が狭いために子宮に強い収縮が起こる、とか、言われていますが、原因がはっきりしないことも多いようです。また、子宮内膜症や子宮筋腫などの病巣が痛みの原因であることもあります。

鎮痛剤も効かない生理痛には、ホルモン剤や漢方薬、といった治療方法もあります。ホルモン剤をうまく使うことで、生理痛が起こる時期を、重要な仕事の時期と重ならないようにする、とか、生理の回数を減らす、ということもできるようになって来ています。医療機関をうまく活用して頂けるといいでしょう。

回答者:星野寛美(産婦人科医師)
医療機関を利用するかどうか、どう判断したらいいですか? 働く女性
軽い症状だと、医療機関を受診すべきかどうか、迷いますよね。医療サイドとして受診の判断の目安として頂きたいのは、「日常生活に支障が出ているかどうか」「市販薬が効かないかどうか」です。日常生活に支障がある症状で、しかも市販薬では対処しきれない、ということであれば、是非、早めに、医療機関を受診して下さい。

ただ、早期治療が必要な病気が隠れている場合も考えられますので、基本的に、年1回、健康診断は、きちんと受けることが必要です。その時に、気になる軽い症状について、申告すると、適切なアドバイスをもらえます。

もし、ご家族や血縁者に癌の方が多い、とか、自己免疫疾患の方が多い、といったことで心配であれば、日常生活に支障がなくても、念のため、医療機関で相談なさるといいでしょう。

なお、人によっては、軽い症状が気になって、何か所も医療機関で相談なさる方がおられますが、3か所まではいいとしても4か所以上、相談する必要はありません。

回答者:星野寛美(産婦人科医師)
生理痛がひどいが婦人科を受診するのは、嫌。どうしたらいいですか? 働く女性
生理痛がひどい場合、放置すると生理以外の時期にも激痛を起こす可能性のある病気や、手術が必要な病気が隠れていることがあります。市販薬で、痛みが治まるのであれば、市販薬を飲みながら対処して頂ければいいのですが、念のため、一度、超音波検査で子宮や卵巣の病気がないかどうか、確認をしておいたほうがいいですね。

婦人科を受診したくない理由は何でしょうか? 婦人科は、「妊娠に関わる診療科」というイメージがあり、受診をためらう方もいますね。また、性交の経験がないので、内診(膣からの診察)を受けたくないとか、男性の医師だと相談しにくい、という方も多いようです。

内診が難しい場合は、肛門からの診察、あるいはベッドの上で、お腹の上からの超音波検査をお受けになることも可能です。ご自身の希望を、医師や看護師に伝えて、診察内容を配慮してもらえるといいでしょう。

また、婦人科の医師が女性か男性かは、インターネット上で確認できる医療機関がほとんどです。もし、心配であれば予め電話で、女性医師かどうか確認した上で受診なさるといいでしょう。インターネットで診察時間や担当医師を予約できる医療機関も増えています。上手に利用して頂きたいと思います。

なお、生理痛に対しての治療法ですが、痛み止めだけではなく、ホルモン剤や漢方薬による治療もあります。それぞれの治療方法について、効果、副作用等、詳しく説明を受けた上で、適切な治療をお受けになり、痛みから解放されるといいですね。

回答者:星野寛美(産婦人科医師)
生理の量が多くて、仕事中も苦労しています。どうしたらいいですか? 働く女性
生理の量が多くて、生理用品の交換の時間を逃すと服や椅子を汚してしまう、というお悩みの方は、仕事中に業務に集中できず、お困りのことと思います。

生理の量が多い原因について、検査をお受けになったことはあるでしょうか?

子宮筋腫、子宮腺筋症といった病気によって量が多い場合には、閉経になるまでは、徐々に悪化する可能性がありますので、早めに適切な治療をお受けになることをお勧めします。

子宮筋腫や子宮腺筋症は、悪性の病気ではないので、命に関わることはありませんが、毎月、生理の量が多くて苦労なさっているということであれば、止血剤、ホルモン剤などの薬による治療、あるいは適切な手術をお受けになったほうが、いいだろうと考えられます。

子宮筋腫や子宮腺筋症など、超音波検査では明らかな病変は見つからないが、生理の量が多い、という場合、血液のご病気もない状態であれば、「機能性過多月経」と判断します。その時は、主に薬で治療します。一般的には、避妊にも使う低用量のホルモン剤を使うことにより、生理の量を減らすことが期待できます。

仕事に支障を来すような大量の生理であれば、是非、レディースクリニックなど婦人科でご相談下さい。

回答者:星野寛美(産婦人科医師)
生理休暇の制度はあるけれど取りにくい。どうしたらいいですか? 働く女性
生理休暇は働く全ての女性労働者に適用される休暇ですが、生理は女性特有のもので生理痛にも個人差があるため、周囲に理解されるかどうか心配で申請しにくいという声をよく聞きます。厚生労働省の調査によれば、生理休暇の取得率はわずか0.9%とほとんど利用されていません。その理由として挙げられるのは、「生理だと知られるのが恥ずかしい」「生理くらいで仕事を休める雰囲気ではない」といった「取得のしにくさ」です。

確かに、生理日の体調不良について言い出しにくい面もあるかと思いますが、就業できないような状態で無理に出勤しても、本人の健康を害することはもちろん、職場にとっても好ましい環境ではありません。生理は毎月のことですし、辛くて働けないようであれば率直に上司に伝えるべきです。もし一人で上司に言いにくければ、同僚や同じ悩みを持っている女性と一緒に申し出ることも考えられます。また、面談などの機会に、生理に伴う症状により就業が難しいことがある旨をあらかじめ伝えておくこともひとつの方法です。その際に、どのような症状かできるだけ具体的に伝えると上司も理解しやすいと思います。生理休暇の取得には原則として医師の証明などは不要ですが、ご自身で説明しにくい場合は、医師の診断書などを用意して上司に見せてもよいかもしれません。

生理休暇は、当日の口頭での請求も半日や時間単位の請求も可能で日数の上限もありませんが、「生理日の就業が著しく困難な場合」の休暇であり、単に生理であることだけで認められるものではありません。また、休暇を取得する場合には「当然の権利だから」という態度ではなく、休暇により仕事に支障がでないような配慮など周囲への心配りも大切です。日頃から職場での良好なコミュニケーションを築いておくと良いでしょう。

そのようにしても、生理休暇の取得について上司や職場の理解が得られない場合には、一人で悩まず人事担当者に相談してください。使用者には就業環境に配慮する義務がありますので、会社の問題として対応を求めることができます。

(2020年10月)

回答者:梅本公子(特定社会保険労務士)
「不妊治療で休むならもう辞めたら?」と上司から言われました。どうしたらいいですか? 働く女性企業担当
不妊治療に伴う検査や投薬、ストレスなどにより、女性の心身に大きな負担がかかることが多く、仕事との両立が困難になる場合もあります。本来ならば上司が職場の要となって仕事との両立を支援すべきところですが、相談者の場合、上司の理解が得られない状況ですので、ひとりで悩まずに、まずは会社の相談窓口や人事担当者などに相談してみてください。

2020年6月の男女雇用機会均等法の改正に伴い、いわゆるマタハラの原因や背景に「不妊治療に対する否定的な言動」が含まれることが指針に明記されました。今回の上司の発言はハラスメントに該当する可能性もあります。社内で相談しにくいような場合など、都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)へ相談することも可能です。

現在のところ、不妊治療に伴う休暇制度などは法制化されていませんが、健康経営の観点から積極的に支援に取り組む企業が増えてきています。ご自身の会社に不妊治療でも利用できる制度(休暇や休職、治療費の補助、勤務時間の調整等)がないか就業規則などで確認してください。傷病に関する制度などが不妊治療にも適用されるかもしれません。

なお、不妊治療中であること等を伝えるためのツール「不妊治療連絡カード」や特定の不妊治療に係る費用の助成制度などの情報(※)が厚生労働省のウェブサイトに掲載されていますし、自治体などでも独自の支援を行っている場合がありますので、是非確認してみてください。

不妊治療期間中は、早退や遅刻、休暇などが多くなり、長期化することも考えられるため、治療の継続には職場の理解が欠かせません。治療について正直に打ち明けられるよう日頃から良好なコミュニケーションを築いておくことが大切です。また、急な休みなどに備え、できるだけ仕事を前倒しにすることや、業務の見える化(マニュアル作成や進捗状況一覧作成など)を図っておくと良いと思います。

(※)不妊治療に関しては改正の動きがありますので最新の情報を確認してください。

(2020年10月)

回答者:梅本公子(特定社会保険労務士)
何となく、疲れやすい。朝も熟眠感がありません。更年期だから、そのうち治ると思いますが、ほっておいていいですか? 働く女性
朝、寝覚めがスッキリせず、疲れやすい、ということですと、睡眠の質が問題のようですね。もし、日中眠気に襲われて仕事に支障がある、ということであれば、一度、かかりつけのクリニックなどで、ご相談なさるといいでしょう。

閉経の5年前から5年後までの期間を更年期と呼んでいます。更年期の時期には、さまざまな症状が出ます。一般的には、ほてる、ぱっと暑くなるがしばらく経つと治まる(ホットフラッシュ)、汗が出る、動悸がする、といった症状と共に、疲れやすい、眠りが浅い、気分が落ち込みやすい、といったことが起こります。

もし、ホットフラッシュなどがなくて、熟眠感がなく、何となく疲れやすい、ということだけであれば、更年期のため、というよりも、睡眠の質の問題だけ、ということが考えられます。そのため、まずは、睡眠の質を改善するための工夫をなさり、それでもよくならないようであれば、市販薬を使ってみる、あるいは、内科などで、ご相談なさるといいだろうと考えられます。もし、婦人科でかかりつけのクリニックがあるのであれば、婦人科でも、ご相談可能です。

なお、更年期の症状は、自然に軽くなり、なくなっていく場合が多いのですが、閉経後6年以上経っても、症状が残ることがあります。その場合は、「更年期障害」ではなく、自律神経の失調などによる症状と考えられますので、内科などで、ご相談なさるといいでしょう。

回答者:星野寛美(産婦人科医師)
乳がん検診・子宮がん検診はいつからどんなものを受けたらいいですか?(自治体による制度の違いはありますか?) 働く女性企業担当
国が進める検診は、次のとおりです。
がんの種類 対象者 受診間隔 検査項目
乳がん検診 40歳以上 2年1回 問診および乳房X線検査(マンモグラフィ)
子宮頸がん検診 20歳以上 2年1回 問診、視診、子宮頸部の細胞診および内診

検診の受け方は下の3つの方法があります(乳がんも子宮頸がんも共通)
  1. お住まいの市区町村の補助制度を利用する
    各自治体のホームページでご確認ください。自動的に受診券が郵送されてくる市区町村もあれば、自分で申し入れしないと受診できない場合もありますので、必ず、ご自分のお住まいの自治体のホームページ、広報誌で確認するか、電話でお問い合わせをしてください。
    自己負担の金額にも市区町村で違いがありますので、あわせてご確認ください。 (日本医師会ホームページ)
  2. 職場での検診を利用する(実施や補助の有無については、勤務先の検診内容をご確認ください。)
  3. 人間ドックなど自身で個別に検診を受ける(病院・クリニック等のホームページを確認し予約をしてください。)

2.メンタル

産後うつにならずに元気に職場復帰するための対策はありますか?働く女性企業担当
妊娠出産は女性にとって大きくホルモンの変化を経験する初潮以来の大きな出来事です。厚生労働省の2013年度の調査によると、出産した女性のうち10人に1人に産後うつが確認されています。 産後数カ月以内に発症し、1年以上続くこともあり誰がなってもおかしくないとても身近なものです。 ホルモンバランスの変化に加え、環境の変化や育児の不安なども要因になります。 また、このコロナ禍ではその数は倍増したとの研究結果(筑波大学 松島みどり准教授他)も出ています。 また産後うつの疑いがある母親の3分の2が自分がうつであることを認識していないこともわかりました。

そこで産後うつにならないためにできることを考えてみます。コロナ禍で人と会う機会も外出の機会も減り、ますます孤立しがちですが辛い時、 わからない時にはがまんしないで周囲に助けを求めることが大事です。 出産した産婦人科、地域の保健センターや助産師さん、子育て支援グループの助けを借りても良いでしょう。 自治体のHPなどをチェックしてみると意外と発見があるものです。 「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」というものがインターネットで簡単に手に入りますのでチェックしてみて9点以上なら要注意です。 1か月検診で実施しているところもあります。まずはひとりで頑張りすぎないことが大事です。 完璧な子育てなんてありえません。パートナーや身内の協力が得られるならそれはとても大事です。 出産前から家事や育児の分担を決めておくことや妊娠中の検診や出産後の検診で一緒になった人に声をかけて地域で知り合いを作っておくのも良いでしょう。 また職場の産休・育休の制度を調べておくことも大事です。もし同じ経験をした同僚や先輩がいれば、 何かと相談に乗ってもらったり、アドバイスをもらえるよう産休に入る前に関係を築いておけると良いでしょう。

回答者:伊藤厚子(臨床心理士)
会社に行くのがつらいです働く女性
「つらい」の原因があきらかで、それが解決可能であればそのうちに元気になるかもしれませんが、多くの場合は休んでリフレッシュすることが有効です。 休暇中はなるべく仕事のことは考えないで、リラックスすることを優先します。そのうえでなぜ行くのがつらいのかを考えてみます。 職場環境なのか人間関係なのか、それとも仕事そのものなのか。 その問題の解決に向けて自分にできることは何かをいくつか挙げてみて、誰かに相談することも含め、まずは行動してみるのです。 思いつかなければ誰かに協力してもらって挙げてもらっても良いです。実行に際して協力者が必要な場合は、あらかじめ協力を頼んでおくことも大事です。 まずは行動してみて、全てが解決しなくても一部でも解決すれば次の行動につながります。 いろいろ試してもダメな場合は転職も視野に入れなければならないこともあるでしょう。 また、この方法は身体症状などが出ていない場合に適用できるものです。

もし次のような症状がある場合には無理をしないで心療内科、精神科を受診してください。併せてカウンセリングを受けられるのであれば利用しましょう。

1. 眠れない、途中で起きてしまう、寝た気がしない
2. だるい、疲れが取れない
3. どこも悪くないのに頭痛、めまいがある
4. 胃腸の調子が悪い
5. ミスが増えた、記憶力・集中力が低下した
6. 周囲に対して興味関心がなくなり楽しめるものがなくなった

診断によっては休職が必要になるかもしれませんが、先のことをあれこれ悩んだり、仕事の心配をするよりもまず、自分の健康を取り戻してからでないと何も始まりません。

回答者:伊藤厚子(臨床心理士)
気軽にできるストレス対処法はありますか?働く女性
ストレスにうまく対処する方法を「ストレスコーピング」といいます。アメリカの心理学者ラザルスはストレスが生じる要素として、ストレスの原因をどう受け止め認知するかが重要だとしています。つまりストレスの原因自体の大きさや脅威の程度を評価(1次的評価)し、ストレスにどの程度対処できるのか(2次的評価)を判断してコーピングを選択するのです。ストレスコーピングには大きく分けると「問題焦点型」と「情動焦点型」の2種類がありますがすぐに解決できない場合、とりあえず問題から離れてリラックスする気晴らし型のコーピングも効果的です。ここでは気晴らし型を紹介します。

例えば、フェイスパックをする・好きな音楽を聴く・旅行に出かける・星を見る・猫の動画を見る・キッチンを磨く・いつもより凝ったメイクをする・走って汗をかく等、好きなもの、気分が良くなるものをできるだけ具体的にリストアップします。笑える画像やDVDも良いでしょう。笑いのツボは人によって多少違うので他人のおススメよりは独自のものが見つかると何度も使えます。時間やお金がかかるものよりも手軽にできるものをたくさん集めることです。過去に試してみて効果的だったものはぜひ加えておきましょう。コーピングは普段からたくさんためておくことが大事で、私はコーピングノートにどんどん書き加えていくことをおすすめしています。数が多いほど選択肢は増え、状況や程度に応じてあれこれ試してみることができます。

やけ酒・やけ食い、楽しくてもギャンブルや買い物に走ることは将来の健康問題や依存症につながるおそれもあるのでお勧めはできません。

回答者:伊藤厚子(臨床心理士)
メンタルヘルス~話の聴き方で気を付けることは?企業担当
話のききかたのうち「聴く」は読んで字のごとく耳と心できくことで、よく言われる傾聴です。ここでは誰かに相談された場合の話の聴き方についての注意点をあげます。

相談を受けた人がやりがちなのが相手のためを思ってプラス思考をすすめたり、解決策を提示したり、励ましたり、間違った考え方を正してしまうことです。相談者はまず聴いてほしいのにこのようなことを言われると「わかってもらえない」と感じてしまいます。特に自分の価値観を押し付けて正しい方向に導こうとするのは危険です。
ポイントを5つあげます。
  1. まずは共感(相手より自分のほうが多く話していないか?)
  2. 好奇心は抑え、意図的に話を引き出さない
  3. 教育的指導はしない
  4. 辛い体験を無理に思い出させない
  5. 「話したくないことは話さなくていい」ということを保証する
また、「なぜ」「どうして」は要注意です。悩んでいる本人にも理由がわからないこともあり、そのような場合にはこの言葉を使われると責められているように感じてしまいます。質問は本人が話した内容について理解を深めるため、あるいは本人の話の内容を整理し、こちら側の理解がこれであっているか確認のために使います。

回答者:伊藤厚子(臨床心理士)

3.食事

朝食は取ったほうがいいですか?働く女性
朝食は召し上がっていただくことをお勧めします。
過去の調査でも、朝食を召し上がる人の方が、筋肉量・骨量は朝食欠食者よりも高く、体脂肪率は低いという傾向につながっています。また、身体やメンタルの不調や働く女性に多い「冷え」の症状も低下する傾向も見られました。朝食をとると1日の摂取エネルギー量は増加しますが、それに伴い補える栄養素が増加し、代謝の上昇が期待できるためです。
朝食を食べる習慣を身につけることにより、午前中の仕事のパフォーマンスが上がった、というお声も聞かれます。
メニューのおススメは、『糖質+たんぱく質』の組み合わせです。卵やヨーグルト、をプラスしたり、おにぎりやサンドウィッチなどは、鮭・ツナ・たまご・チキンなどの具材を中心に選んでみましょう。

回答者:豊永彩子(管理栄養士)
貧血対策 何を食べたらいいですか?働く女性
まずは、毎食『たんぱく質食材を片手ひと盛り』を意識なさってみてください。
たんぱく質食材の、中でも動物性である、お肉お魚の中を、さらに「赤身」が貧血予防に欠かせない栄養素、鉄分をより豊富に含みますが、日々そういった食材を補うのは少しハードルが高めです。日常的にまずは、たんぱく質食材を補うことが貧血予防にもつながります。
それ以外には、貧血対策に必要な鉄分、亜鉛、ビタミンB12、葉酸などの栄養素は、牛肉・レバー・貝類・青菜野菜・まぐろなどから補うことができます。
反対に、鉄分の吸収を邪魔してしまうカフェイン飲料などは、食事前後1〜2時間は避けるのがお勧めです。

回答者:豊永彩子(管理栄養士)

4.生活習慣

夜、眠れません。何科で相談したらいいですか?働く女性
眠れない、というのは、眠ろうと思っても目がさえてしまうということでしょうか? あるいは、一旦眠っても、途中で目が覚めてしまい、それから朝まで眠れない、ということでしょうか? いずれにしても、夜眠れなくて、日中、仕事に差し支える、ということであれば、医療機関で相談したほうがいいですね。

一般的に、眠りのトラブルについて、専門としているのは、精神科と心療内科です。ただ、いびきがひどくて、寝ている最中に一定時間呼吸が止まる、という症状があり、起床時に熟眠感がなく、日中眠くなる、ということであれば、睡眠時無呼吸症候群による眠りのトラブルですので、呼吸器科での治療が必要となります。

まずはかかりつけの、内科のクリニックで相談なさるといいでしょう。その上で、精神科や心療内科あるいは呼吸器科で、専門の治療を受けることが必要か判断なさったらいいでしょう。

睡眠トラブルに対する治療としては、一般的には、睡眠導入剤や安定剤が使われますが、場合によっては、そのような薬を使わなくても、心理カウンセリングや漢方薬などで、改善されることもあります。

既にご対応済みかもしれませんが、いい睡眠を取るためのヒントがインターネット上にも多数ありますので、ご検討頂くといいと思います。また、日本睡眠学会で専門医を探すこともできますので、ご活用下さい。

回答者:星野寛美(産婦人科医師)
良い睡眠をとるための方法を教えてください。働く女性
良い睡眠をとるための準備は朝から始まります。つまり朝の光を見ることが大事ということです。メラトニンという睡眠に関するホルモンの名前を聞いたことがあるかもしれませんが、この物質は「体内時計*1」を調整する役割があり、朝の光で分必が止まって心身が活動状態となりその15~16時間後に再度分必され、眠くなるという仕組みです。ヒトの体は地球の24時間リズムと連動していますがヒトの体内時計は24時間より少し長いので朝の光でリセットされ1日のリズムが刻まれるのです。

このメラトニンの分泌は光の影響を受けるので、夜に強い光を見ると体内時計が乱れてメラトニンの分泌が抑えられてしまいます。夜の部屋の明かりを暖色系の柔らかい明りにするなどの工夫も効果的です。また、就寝前に布団にスマホやタブレットを持ち込んで見ながら寝る、いわゆる「寝落ち」するのは良い睡眠の妨げになります。質の良い睡眠は長さではなく入眠後約90分間の深い睡眠の質によると言われています。ここでうまく眠れなかったり、誰かに起こされたりするとその後、朝起きるまでの睡眠リズムが乱れて「寝た気がしない」状態になってしまいます。

ヒトの体はリズムによってコントロールされているのでこのリズムに沿って生活し、毎日同じ時間に寝て同じ時間に起きれば良質の睡眠は得られますが、現代はなかなかそうもいきません。生活の中ではリズムを意識してなるべく自然の身体の流れを妨げない工夫が必要です。なかなか眠れない場合は生活全体を見直してみましょう。寝る前には面白い本を読んだりして脳を興奮させないように、つまり頭を使わないようにすることが大事です。寝る前の「いつもの」儀式*2も頭を使わないですむため眠くなります。また忙しくて夜中まで作業や勉強をして明け方に3時間寝るよりは、まずいつもの時間に3時間寝てしまってその後起きて作業するほうがずっと効率も上がるし睡眠の質を大きく落とさなくて済みます。また、どうしても昼間に眠くなってしまう場合は20分程度の昼寝がおすすめです。横になって眠らなくても座ったままでも目を閉じるだけでも違います。

*1脳内には体内時計といわれるものがあり、各臓器のリズムも調節している。この時計のおかげで意識しなくても日中は心身が活動状態になり、夜は休息状態になる。
*2睡眠のためのルーティンのことで、いつもの音楽、いつもの落語などを聴く、いつものストレッチをする等。

回答者:伊藤厚子(臨床心理士)

5.職場

男性の理解を進めるにはどうしたらいいですか?働く女性企業担当
女性の健康課題については、自分には関係ない、大したことはない、自己管理の問題である、などと考える男性がいるかもしれません。 また、これまでは、女性自身も、ガマンするのが当たり前と捉え、周囲に相談するのも躊躇する等、オープンに理解を求めるような風潮ではありませんでした。 しかし近年では、従業員の健康管理や健康増進の取り組みを「投資」と捉え、経営的な視点で考えて、戦略的に実行する新たな経営手法としての「健康経営」が注目されています。健康経営というと、 メタボ対策や禁煙等に取り組む企業が多いですが、女性の肥満や喫煙者は男性より少なく、それよりも、約5割の女性が女性特有の健康課題で困ったことがあるという実態があります。
(出典:働く女性の健康増進に関する調査2018)女性の健康について理解を進め対策を取ることは、病気などによる休職や離職の防止や、生産性の向上、帰属意識の向上など組織の活性化をもたらし、ひいては業績の向上や企業のイメージ向上、採用増加へ繋げていく取り組みでもあります。

男性の理解を進めるには、まずこれらを認識することからスタートするのはいかがでしょうか。 全社員の理解を一気に進めるのは難しいかもしれません。それでも、社内研修や社内イントラでの周知などを継続的に実施し、理解者を増やしていくことが、男女問わず体調への配慮ができる働きやすい職場づくりにつながります。

当サイトでは、女性の健康について学べる研修用資料を提供しています。ご自由にダウンロードできますので、是非ご活用ください。 詳細はこちら
仕事を続けながら不妊治療をしようと思っています。どのような支援制度がありますか?働く女性
これから不妊治療をはじめられるとのこと、仕事との両立にあたってはご心配な面もあろうかと思います。不妊治療の負担軽減や仕事との両立のため、国や自治体も取組を進めていますので、以下、支援制度についてご案内します。

国の支援制度
<特定不妊治療(体外受精及び顕微授精)への助成>

現在、公的医療保険の適用外となっている特定不妊治療について、2022年度からの保険適用に向けて検討が進められていますが、 適用までの経済的負担の軽減措置として、2021年1月1日以降に終了した治療について、 所得制限の撤廃や助成額および助成回数の大幅な引上げが行われました。
不妊に悩む夫婦への支援について

<不妊専門相談センター>
各都道府県、指定都市などに設置されており、不妊症に関する専門的な相談や心の悩み等への相談対応、情報提供を行っています。 交流会や講演会などを実施しているセンターもあります。
不妊専門相談センターについて

<不妊治療と仕事の両立支援>
 職場環境の整備へ向けた支援として、不妊治療に関する助成金の新設や事業者団体への取組要請などを行っています。 また、従業員向けに「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」や「不妊治療連絡カード」を作成(下記サイト内に掲載)しています。
不妊治療と仕事の両立のために

自治体の支援制度
自治体によって支援内容は違いますが、国の支援制度の拡充等(特定不妊治療助成の上乗せや一般不妊治療等への助成、相談窓口の設置など)を行っている自治体もありますので、各自治体のウェブサイトなどでご確認ください。

企業の支援制度
いまのところ、不妊治療に関する休暇制度等は法制化されていませんが、 様々な企業で従業員の不妊治療と仕事の両立に取り組む動きが広がっています。 お勤めの会社に、休暇や休業、労働時間に関する制度や費用の助成など、不妊治療にも利用できる支援制度等がないか確認してみてください。

(2021年9月)

回答者:梅本公子(特定社会保険労務士)
流産・死産でも産休は取れますか?働く女性企業担当
産休(産前・産後休業) については、労働基準法第65条で「使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあつては14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合および産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない」と定められています。 ここでいう「出産」とは妊娠4か月(85日)以上の分娩を指し、当該分娩には流産(人工妊娠中絶を含む)・死産も含まれるため、妊娠4か月以上の流産や死産の場合は産後休業の対象となります。産前休業については流産・死産の時期によって取扱いが異なります。

<産前休業について>
産前休業は、自然の分娩予定日から6週間(もしくは14週間)遡った日を「初日」とし、実際に出産した日までが対象期間となります。 「初日」以降に流産・死産をした場合にはその日までが産前休業の対象期間となりますが、「初日」より前に流産・死産をした場合には産前休業の対象とはなりません(仮に手術日があらかじめ決まっていてもその日から遡って休業できるということではありません)。

<産後休業について>
産後休業は、出産日を基準としてその翌日から期間を計算します。妊娠4か月以上で流産や死産をした場合はその日が出産日となりますので、その翌日から8週間が産後休業の対象期間となります。 なお、産後休業は、本人の請求の有無にかかわらず使用者が与えなければならない休業(※)であり、流産や死産の場合も同様に取り扱われます。
(※)産後6週間を経過した女性が請求し医師が支障ないと認めた業務への就業は可能

労働基準法上の産前・産後休業については上記のとおりですが、法を上回る制度を設けている会社もあります。 妊娠4か月未満の流産や死産を含め、労働者の状況に合わせた休暇や休業を取得できる場合がありますので、 お勤めの会社に法定の休業以外にも利用できる制度等がないかご確認ください。

(2021年8月)

回答者:梅本公子(特定社会保険労務士)
不妊治療をする従業員へのサポートは、どのようにしたら良いでしょうか。企業担当
不妊治療を行う従業員は、仕事との両立に不安を抱えながらも周囲に打ち明けにくいと感じていることが多いため、本人に安心感を与えられるような支援が望まれます。支援に当たっては、特に以下のような点に留意してください。

<プライバシーの保護>
従業員からの相談内容などが周囲に漏れることがないよう十分な注意が必要です。その対策として、例えば、情報を共有するメンバーや伝達経路などを本人と話し合って決めておくと良いでしょう。なお、不妊治療等の個人情報について本人の了解を得ず、他の労働者に暴露することはパワーハラスメントに該当する場合もあります。

<職場の意識啓発・理解促進>
「妊活」という言葉も広まりましたが、当事者以外は不妊治療に関して知る機会が少なく、周囲の従業員が支援に抵抗を感じる場合もあります。職場の理解を促すため、定期的な研修や情報提供など、不妊治療の現状や正しい知識が得られる機会の提供も必要です。不妊治療が身近であることや支援の必要性について理解が進むと、不妊治療を受け入れやすい職場の風土が醸成されるとともに、ハラスメント防止にもつながります。

<支援制度・相談体制の整備>
不妊治療と仕事の両立を支援するための制度を導入する際は、社員のニーズや実態等を把握して、制度の内容を検討しましょう。なお、どのような制度を導入する場合であっても、性別や雇用形態にかかわらず利用できるものとすることが必要です。 具体的な制度の内容としては、不妊治療に利用可能な休暇制度のほか、フレックスタイム制、時差出勤など、柔軟な働き方を可能にする両立支援制度の整備が考えられます。治療の実態に応じた頻繁な通院等にも対応できるような制度の整備が求められますが、「不妊治療」を前面に出さない方が利用しやすい場合もあります。その点を踏まえて、従業員の選択肢をできるだけ多くしておくと良いでしょう。また、不妊治療中の従業員だけでなく全員が対象となる制度の導入や利用促進など、周囲とのバランスを考慮した総合的な取組も大切です。 相談体制については、上司との定期的な面談や上司以外にも相談できる窓口の設置、オンラインの活用などの工夫をしながら、会社として両立を後押しするという姿勢を示すと本人も心強いと思います。

なお、具体的な支援の進め方や事例等は、以下の資料に分かりやすく記載されています。社内研修用の資料としても利用できますし、従業員向けのアンケートフォームなども掲載されていますのでご活用ください。
「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」

(2021年9月)

回答者:梅本公子(特定社会保険労務士)
ヘルスリテラシーとは何ですか?企業担当
「ヘルスリテラシー」とは、健康に関する様々な情報を入手し、理解し、活用する能力のことをいいます。

女性は生涯にわたる女性ホルモンの変化や、毎月のリズムによる不調のリスクを抱えています。自分のカラダのことを知るために、氾濫する情報の中から正確な情報を選択でき、我慢せず必要に応じて医療機関等に相談や受診ができるよう、女性自身のヘルスリテラシー向上に向け対策をとることが大切です。
また、ヘルスリテラシーの高い人の方が、仕事のパフォーマンスが高いという調査結果があります。(出典:日本医療政策機構 4 「働く女性の健康増進に関する調査2018(最終報告)」)
「欠勤や休職、遅刻早退など職場にいることができず、業務に就けない状態」(アブセンティズム)のみならず、「出勤しているにも関わらず、心身の健康上の問題により充分にパフォーマンスが上がらない状態」(プレゼンティズム)が課題として注目されていますが、その改善のためにも、ヘルスリテラシーの向上が重要といわれています。
なぜ女性だけの健康対策が必要なのでしょうか?企業担当
働く女性の健康について、あえて男性と区別し、女性だけの対策を講じる必要性は2点あります。

1つめは、性差医療という視点です。医学は長い間、成人男性を基準に発展してきました。しかし女性と男性では、かかりやすい病気が違う、同じ病気でもかかりやすい年代や病状、治療法などが異なる場合がある、といったことがわかってきました。大きな違いは、女性の心身の状態が、一生を通じて女性ホルモンに影響を受けるということです。そのため、思春期、妊娠・出産期、更年期、老年期といった、ライフステージごとに男性とは異なる健康課題が存在します。

2つめは、女性の働き方が変わってきたということです。日本では近年まで女性は結婚、または、出産がきっかけに退職する人が多くを占めていました。女性の勤続年数が短いこと、また再就職してもパートタイム労働などの働き方が多かったために、職場が女性に特化した健康課題を知らず、その取組の必要性も低かったのです。しかし、職場における女性活躍や両立支援が急速に進む中で、妊娠中・出産後も働き続ける女性が増加し、職場として女性特有の健康課題に向き合い対処する必要がますます高まってきています。
健康経営とは何ですか?企業担当
「健康経営」(※1)とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。

従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながることが期待されています。
少子高齢化が進む中、生産年齢人口の減少に伴う労働力不足、従業員の高齢化、医療費の適正化、長時間労働やメンタル不調による従業員の健康リスクへの対応など、国や企業が抱える様々な課題を背景に推奨されています。

健康経営に係る顕彰制度としては、経済産業省により、下記の取組が行われています。
○「健康経営銘柄」:
優れた健康経営を実践している企業を、東京証券取引所の上場企業33業種から、経済産業省と東京証券取引所が共同で各業種につき原則1社ずつ選定。平成26年度から実施しています。
○「健康経営優良法人認定制度」:
優良な健康経営を実践している法人を顕彰する制度で、平成28年度に経済産業省が創設し、日本健康会議(※2)が認定しています。「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」に分かれています。「健康経営優良法人2020」の認定から、大規模法人部門認定法人の中で、上位500法人を「ホワイト500」としています。

「健康経営銘柄」、「健康経営優良法人認定制度」の詳細については下記を参照  経済産業省

※1「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※2「日本健康会議」とは、少子高齢化が急速に進展する日本において、国民一人ひとりの健康寿命延伸と適正な医療について、民間組織が連携し行政の全面的な支援のもと実効的な活動を行うために組織された活動体です。
女性が働き続けたいと思うには、どんな制度が効果的ですか?企業担当
妊娠出産に関連する制度・女性特有の月経症状や疾患に関係する制度の導入、制度を活用しやすい環境整備が重要です。

過去の調査※からは、『“長く働き続けられる自信”は「健康状態」と「会社の制度への満足度」が支えていた』という結果が明らかになりました。女性社員の離職(および検討)理由には、妊娠出産・月経関連不調が多く挙がり、健康に働き続ける自信がある人ほど、離職経験や離職を検討した経験が少ないことがわかりました。自由意見欄には、会社の制度や就業環境などのハード面の整備のほかに、男性管理職を含む職場全体の「女性特有の健康に関する」理解度を上げることなども寄せられています。
※日経BP総研メディカルヘルスラボ/一般社団法人ラブテリ調査/調査対象1,027名

回答者:豊永彩子(管理栄養士)
働く女性のリアルな声!女性が企業側に求めるサポートとは?企業担当
健康的に勤務するために、勤務先に望むサポートへの調査を行った結果、以下のような声が聞かれました。制度の充実と、制度を利用しやすい環境作りの両面で進めていく必要です。

1位:甲状腺や貯蔵鉄など女性の健康に特化した血液検査
2位:健診制度全般の充実
3位:より自由度の高い勤務制度
4位:周囲や同僚、上司から女性特有症状の理解が得られる環境
5位:福利厚生の充実

それ以外にも、女性特有の健康情報について学ぶ機会や情報提供/食堂や売店など食環境の充実などの要望も聞かれています。

回答者:豊永彩子(管理栄養士)
中小企業でもできる、女性の健康課題に配慮した職場の環境づくりとは?企業担当
女性の健康は、妊娠・出産などのライフイベントに大きく影響を受けるほか、月経や不妊治療、婦人科のがん、更年期障害など就業期間全体を通じて何らかの影響を受けやすく、年齢が高くなるほど健康リスクが高まる男性とは根本的な相違があります。女性の健康課題については、女性自身もよく理解していないことが多く、適切な対応がとれないまま昇進や自身の望むキャリアをあきらめてしまう場合もあります。

このような事態を避けるためには休暇制度などの整備にとどまらず、女性の健康課題に対する従業員の理解を深める必要があります。企業の対応として、研修などにより女性特有の症状や疾病に関する理解を定期的に促進することが重要です。研修の実施にあたっては、男女ともに参加し認識を共有することや、「女性の健康」を前面に出さずに、キャリア形成の一環として開催するなど状況に応じて工夫すると良いでしょう。女性のキャリアプランやライフステージに関連付けたセミナー、ワークショップ型の研修などを実施している企業もあります。

また、女性特有の症状については、周囲の理解が得られにくいことや本人が言い出しにくい場合があるため、気軽に相談できる窓口の設置が必要です。窓口担当者には女性も配置し、メールや電話でも相談できるような工夫も有用です。プライバシーの確保や担当者の配置が困難な場合には、外部専門家との連携(産業医へのメール相談など)を検討することも考えられます。

職場の環境整備には、経営トップ自らが積極的に取り組む姿勢を表明することも重要です。特に中小企業では経営層と従業員との距離が比較的近いため、トップの姿勢を示すことで従業員の意識が高まり、職場環境の改善につながりやすくなります。全ての従業員が健康で生き生きと長く働ける環境の実現のため、女性の健康課題に対してもお互いに助け合い柔軟に対応できるような職場づくりに取り組んでほしいと思います。

(2020年10月)

回答者:梅本公子(特定社会保険労務士)
働く女性に関する休暇制度を充実させるために、どのような工夫が考えられますか? 企業担当
女性の健康に関する休暇には様々な法定の制度がありますが、より利用しやすい制度にするため独自の休暇制度を導入する企業が増えています。法定の制度の拡充や休暇の取得促進など、主に以下のような例がみられます。

(法定の制度の拡充)
  • 期間や日数、時間の延長(育児休業の期間延長、育児時間を1回45分に延長等)
  • 適用対象の拡大(子の看護休暇の対象年齢引き上げ等)
  • 有給扱いとする(有給の生理休暇等)
などがあります。
なお、育児時間については、法定の範囲で、始業・終業時刻に合わせたり、2回分(30分×2)をまとめた取得もできるため、そのような取得方法も周知しておくと良いでしょう。

(休暇の取得促進のための制度整備)
  • 短時間でも取得可能な休暇制度(時間単位の年次有給休暇等)
    急な通院や子どもの送迎などの場合でも、短時間の休暇であれば比較的申請しやすく、また、勤務時間中のいわゆる「中抜け」を可能にしている企業もあります。
    ※2021年1月から時間単位の利用が可能になる法定の子の看護休暇や介護休暇についても「中抜け」できる制度にするよう企業に配慮が求められています。
  • 失効する年次有給休暇を積み立てる積立休暇制度
    積立できる日数の上限や取得事由(育児や介護、不妊治療を含めた通院等)を定めたうえで運用することが必要です。

上記以外にも妊娠中の休暇制度の充実など、法を上回る制度について状況に応じて検討してみてください。

休暇制度の整備にあたっては、その目的を明確にし、対象者や対象事由、手続などを定めておくことが必要ですが、特に、賃金支払いの有無や出勤扱いにするかどうかについての取決めは重要です。また、休暇制度の利用を促すため、日頃より制度の周知や理解促進に取り組み、全ての従業員が休暇取得しやすい環境を整えておくことも大切です。

(2020年10月)

回答者:梅本公子(特定社会保険労務士)
同僚の女性からの妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ)の防止策として、職場(事業主・管理職)がやるべき良い対策はないですか?企業担当
まずは、全職員に対して、ハラスメントは、絶対にしてはいけないということの周知と啓発を徹底することが大切です。

なお、このようなハラスメントが起きる背景には、産休・育休による業務の穴埋めを周囲の同僚や部下が担うことへの不満が上げられます。フォローする同僚、部下に対しては、業務過多にならないよう十分対応してください。そのためには、業務目標を見直して、目標や評価を見える化することも対策の一つではないでしょうか。

業務分担をスムースにするためには、日頃から、業務の効率化をはかり、いつでもだれでもできるように、マニュアル作りや体制を整えておきましょう。

一方、制度を利用する職員には、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら業務を遂行していく意識が求められる場合もあります。

妊娠に関係のない部下や同僚でも、いつ、自分の治療や介護で休暇を取得する状況になるかわかりません。 職場全体に、「お互い様」という思いやりの気持ちで働ける職場環境を築くことができるよう、普段から、コミュケーションをはかり、多様な働き方を容認できるような環境作りに務めてください。