PMS(月経前症候群)は、働く女性が産婦人科を受診する理由として非常に多いものの一つです。月経前の数日に、気分の落ち込み、イライラ、集中力の低下、腹部の張り、頭痛などが生じ、月経開始とともに改善するという周期性が特徴です。これはホルモン変動に伴う医学的な変化であり、決して「気の持ちよう」で片づけられるものではありません。
外来では、「PMSを改善したいが、ピルには抵抗がある」という相談をされる方が少なくありません。副作用の情報だけが独り歩きしていたり、周囲に服用している人がいなかったりするため、最初の一歩が踏み出せないケースが多い印象です。しかし、ホルモンの作用機序や血栓リスクの実際、服用中のフォロー体制などを丁寧に説明すると、多くの方が不安を解消され、治療を前向きに検討されます。実際、私の外来でも低用量ピルを開始したことで月経前の不調が大きく改善し、「もっと早く相談すればよかった」と継続治療を選択される方は少なくありません。
PMSの治療には、生活習慣の調整、漢方薬、ビタミン・ミネラル補充、低用量ピル、黄体ホルモン療法、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)など多様な選択肢があります。低用量ピルがすべての方に必要というわけではありませんが、周期的なホルモン変動が症状の一因である場合には、低用量ピルは非常に有効な選択肢のひとつです。特に妊娠希望がない期間であれば、管理しやすく、症状を安定させやすい治療法としてよく用いられます。
精神症状が特に強い場合には、PMDD(月経前不快気分障害)が疑われます。PMDDはPMSの中でも抑うつ・不安・怒りの爆発などの精神症状が主体となり、仕事や生活に著しい支障をきたすことがあります。PMDDも治療可能な病態であり、SSRIやピルの併用によって症状が大きく改善するケースも多くあります。強い精神的つらさが周期的に繰り返す場合は、早めの受診が重要です。
働く女性にとって、まず「自分の症状は治療できるものだ」と知ることが大切です。月経周期と症状の記録をつけることは、診療の精度を高め、より適した治療選択につながります。また、職場環境の調整も欠かせません。月に数日の業務量の調整、在宅勤務の選択肢、会議日程の工夫など、小さな配慮でも働きやすさは大きく向上します。
PMSやPMDDは、正しい知識と適切な治療により十分にコントロール可能です。産婦人科医として、働く女性が自分の体調を理解し、必要な時に医療や職場のサポートを活用できるよう、今後も支援していきたいと感じています。