専門家コラム

妊娠前から産婦人科に来ませんか―プレコンセプションケア

産婦人科は、妊娠したら行く科と思っていませんか? 「私は生来健康-妊娠・出産は病気じゃないし、当然順調にいく」と。

妊娠・出産について、妊娠前から相談、準備することをプレコンセプションケア/カウンセリング(Preconception Care : PCC)といいます。女性の社会進出に伴う、生物学的妊娠適齢期とキャリア形成期の一致は、合併症をもつ妊娠や妊娠に伴う病気の増加をもたらしましたが、情報が氾濫し、社会の理解が追いついていません。また、医学の進歩で、これまで妊娠の機会が得られなかった病気をもつ女性の妊娠が増加しています。しかし、妊娠判明後の施設ごとの対応では、検討が不十分となり、適切な周産期管理が行えません。PCCは、自分の体に妊娠前から向き合い、ご家族とともに情報を共有、文献レビューや関連科との議論により、最適なケア(包括的な妊娠前管理)を提供します。お体の評価、妊娠に適した治療の提案、病気の母児への影響、産褥期を含む妊娠の病気への影響、成人病発症の可能性と長期管理の必要性、近年は新しい家族の作り方も説明致します。

PCCは、新しく大変なことと思ってしまいませんでしたか、そんなことはありません。米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)では2008年に、WHOでは2012年から提唱しています。我が国でも、令和3年2月に定められた「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」において、プレコンセプションケアについて言及され、令和5年3月の変更後には、「男女を問わず、性や妊娠に関する正しい知識の普及を図り、健康管理を促すプレコンセプションケアを推進する。」とされています。そして、皆さんはこれまでにプレコンセプションケアを実践したことがあるはずです。たとえば禁煙、ダイエット、減塩、節酒、がん検診、毎朝のジョギングなども、広義のプレコンセプションケアといえます。産婦人科にも気軽においで下さい。そして沢山お話しください。私たちと一緒に、ご家族とともに女性の生涯を意識した妊娠出産との向き合い方を考えてまいりましょう。病気をお持ちの方は、正しい知識をもち、該当診療科・産婦人科医としっかり連携を取って、妊娠出産を楽しんでいきましょう。PCCは、「正しい知識を知っているからこその、より良い選択」をお手伝いする場です。

谷垣伸治先生

著者:谷垣伸治先生
杏林大学産科婦人科教授