専門家コラム

働く女性と健康――食べる、寝る、そして忘れる

「一緒に仕事をするなら食べっぷりのいい人間を選べ」。昔、仕事で会ったベテラン女性に言われたことがある。 健康は食欲にでる。いい仕事をしようと思えば健康でなければならない。能力も大事だが、まずは健康。女性が働き続けるのが難しい時代に、 男性社会でキャリアを積んできた女性の偽らざる実感だったのだろう。

私は幸いにも40年以上、マスコミの最前線で働くことができた。振り返ってみると健康を支えてくれたのは食事と睡眠、 そして「忘れる力」だったのではないかと思う。食べることは好きで、3度の食事はできるだけ抜かないように心がけた。 忙しいときはおにぎり片手に原稿を書いていることも少なくなかったが、食事を抜いた記憶はあまりない。 そして徹夜はできない体質で、大学受験の時ですら必ず2~3時間は寝ていた。一番つらかったのは子育て中。 双子の男児を育てながらの勤務で、夜中に起こされて翌朝はくたくた。電車のつり革にぶらさがってガクンと膝が崩れかけて目が覚めた。 睡眠は生物の欲求の根源だと身をもって理解した。

そして「忘れる力」。働いていればさまざまなストレスにさらされる。 失敗して「もうダメ」と思ったことも1度や2度ではない。しかし、時間とともにそんな気持ちも薄らいでいく。 性格的にノーテンキなこともあるが、「考えても仕方ないことは考えない」と言い聞かせてきた。 もちろん私とて眠れぬ夜を経験したことはあるが、人間はだれも忘れる力を持っている。 いつか痛みは薄らぐと信じて、落ち込みすぎないことも大切だ。

とはいえ、60代半ばから続く自律神経の不調には今も悩まされている。 女性の体はホルモンバランスが崩れるとさまざまな症状が出るようだ。 その年齢になってみないと分からないことは多い。 鍼灸や漢方も試しながらやりすごしているが、こんな体験も伝えていければ、 シニア女性が体調の変化に出遭った際に少し落ち着いて受け入れる役に立つかもしれないなどと思っている。 

岩田三代

著者:岩田三代
一般財団法人女性労働協会 会長