専門家コラム

なぜ女性は不調を我慢してしまうのか

大学1年生(理系)対象のメンタルヘルスの授業で女性が抱える不調の話をしたところ、 「初めて知った」「ホルモンの影響があるなんて知らなかった」「女性は生理の影響などで不調を抱えている人がいることを知って考えさせられた」 という意見を多くの男子学生が授業後のレポートに書いていました。これから社会に出ていく若者にはぜひ、 一緒に働くことになる女性の健康についてきちんと知ってほしいと感じました。

女性は自分の不調に気付いても我慢してしまい、悪化してから医療機関を訪れるという傾向があります。 女性は生理で毎月のように(個人差はありますが)不調を経験しているので、ある意味不調が常態化してしまっているところもあります。 「多少のことなら我慢できるし、きっとみんなそうしているだろう」と頑張ってしまいます。 また社会全体として女性ホルモンとライフステージ問題に対しての認識が低いと言えます。 女性ももっと自分の不調にきちんと向き合い、何が自分の黄色信号サインなのかを知り、赤信号点滅前に対処することが必要です。

ツムラが2021年1月に行った興味深い調査があります。 「隠れ我慢に関する実態調査」というもので調査対象は全国の20代から50代女性10,000人、心身に不調があってもいつも通り家事や仕事を行う20代から50代女性1,000人です。 ツムラのホームページのトップのコンテンツから見ることができます。

それによると約8割の女性が不調を我慢して家事や仕事をしていて、 さらに不調を我慢した結果、体調を悪化させた人が約6割、また約半数の人が我慢したことを後悔しています。 不調の内容は、1位「疲れ・だるさ」2位「イライラ感」3位「不安感」4位「PMS」5位「睡眠に関するもの」でした。

では、なぜ我慢していつも通りに過ごすのかについては「休むと仕事、家事などに支障が出る」が1位で約半数を占めていました。 4位と5位の「周りに負担をかけたくない」「周りに心配をかけたくない」を含めるとほとんどが自分よりも周囲の状況を優先していると言えます。 一見潔い行動のように見えますが根底には“周囲にとやかく言われるくらいなら我慢したほうがまし“と思っている人も多いのではないでしょうか。 また2位「我慢できる」3位「病気ではなく休むほどではないと思っている」と、不調はみんな我慢しているし、 病気ではないのに休んだら“さぼっている”とか“甘えている”と思われるかもしれないという不安があるのではないかと考えられます。 「親しい女性が不調を我慢していることに気付いたら、しっかり休むことを勧める」という人が8割以上いるのに自分のこととなると 休めないという現状です。

背景には日本の「態度を評価する」という考えがあります。 つまり残業する人は仕事をしているとか、コロナ禍でも出勤すれば会社に貢献していると評価されるなど 「やる気」の基準がまだ根性論に基づいている風潮が残っていると言えます。 また、自己犠牲は美徳という考え方が人を追い込んでいる可能性もあります。 私たちは“みんなのことを考えましょう、自分勝手なことはしないようにしましょう”と学校や家庭で言われてきました。 しかし、みんなの利益になる行動が自分を追い込んではいないでしょうか。 自分さえ我慢すればうまくいくということはありません。 自己主張しないのは面倒なことを避けるためであることも多いのです。 我慢の積み重ねは大きなストレスとなります。何だか辛い、 こんな状況から早く抜け出したいと感じているなら我慢せずに周囲に助けを求める必要があります。 まず自分を満たすことではじめて他人を手助けできるようになり、そのことがめぐりめぐって幸せな人間関係を築くこととなるのです。

最近「フェムテック」とか「フェムケア」という言葉をよく耳にします。 これはFemale(女性)とTechnology(技術)、Feminine(女性の)とCare(ケア)とを組み合わせた造語です。 女性の不調をテクノロジーの活用で解決しようというサービスや製品を意味しており、 世界中で広まっています。やっと「生理」を堂々と語れるようになり、 女性の健康問題が着目される時代が徐々にではありますがやってきているのです。

伊藤厚子先生

著者:伊藤厚子先生
臨床心理士
メンタルサポート・アレーズ代表
東京理科大学 学生相談室専門相談員