専門家コラム

男性の育児休業の取得促進について

2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月から段階的に施行されることに伴い、男性の育児休業取得への関心が高まっています。
直近の調査(※)によれば、男性新入社員の4人に3人が育児休業の取得を希望している一方で、育児休業制度の利用を希望している男性正社員のうち3割が利用しておらず、その理由として「職場の雰囲気」や「業務の属人化」などを挙げています。
若い世代の子育てに対する意識は変わってきており、企業には、法改正への対応とともに男性の育児休業の取得促進のための職場環境の整備が求められています。

職場には、男性が育児をすることへの抵抗や性別役割分担意識のある従業員も少なからずおり、職場の風土を変えていくためには従業員の意識啓発が欠かせません。
経営層や管理職世代と子育て世代とでは意識や価値観にギャップがあることが多く、立場による役割も違うため、制度周知やハラスメント対策などを含めた階層別の研修などによる継続的な意識啓発が重要です。 特に、経営層への理解促進と職場づくりの要となる管理職への働きかけがポイントになります。

業務の属人化を防ぐためには、従業員同士が仕事をカバーできるよう、業務配分や人員配置を再検討しながら、複数担当制や多能工化、情報共有などを進めることが大切です。 その際、業務マニュアルの整備とともに進捗状況をフローチャート等で可視化することもひとつの方法です。
また、女性の育児休業取得者はいても男性の取得者はいないなど、育児休業の取得状況に男女の差が大きいようであれば、それぞれの働き方についても確認してみてください。責任の重い仕事は男性に任せがちであるなど、責任の程度や業務量、労働時間などに男女差がないでしょうか。いままでの働き方を見直し、改善すべき点を洗い出したうえで対応する必要があります。

なお、育児休業取得への理解促進のためには、休業者の業務をカバーする従業員へのフォローも重要です。 お互いさま意識の醸成に加え、従業員から不満がでないよう公平に評価できる仕組みが求められます。 カバーする従業員にとっても、業務経験の拡がりや新しいスキルの習得などにつながるように取り組むと良いと思います。

男性の育児休業の取得が進んでいる企業の多くは、全従業員が休みやすい職場環境を整えており、 休暇や休業の取得に対する理解やお互いさま意識が浸透し、多様な価値観を認め合う職場風土が醸成されています。 また、業務の属人化を防ぎながら効率化を進め、必要に応じてテレワークやフレックスタイム制など柔軟な働き方を取り入れています。
ただ、このような事例を取り入れる際には、自社の状況を踏まえて内容を具体的に検討し、従業員の納得感が得られるような職場環境を作っていく必要があります。そのためには、各従業員が当事者意識を持つことが重要であり、様々な考え方やアイディアを否定せずに検討できる場の提供やトップダウンだけでなく従業員の声を経営層に届けられるようなボトムアップの仕組みが大切です。

ある会社では、従業員が意見を出しやすいように、1 on 1ミーティング、「目安箱」の設置や従業員の満足度調査などを行い、 それぞれの意識や満足度を高めるようにしています。
また、経営層の理解が十分でなかった会社では、法改正動向や休業取得促進のメリット(職場環境の改善、業務効率化や人材確保等)を伝えるとともに、社内アンケートにより従業員の意見を報告し理解を促した結果、トップが意思表明を行い取組が進みやすくなった事例もあります。

2022年4月から「育児休業を取得しやすい雇用環境の整備」等が義務化され、同年10月には、主に男性を対象とした「産後パパ育休(出生時育児休業)」や、育児休業の分割取得も可能となり、今後、様々なパターンの休業取得が予想されます。男性の育児休業を自然に受け入れられる職場づくりには一定の時間がかかるため、早めの対応が必要です。「できない」ではなく「どうしたらできるか」という視点から職場の「当たり前」を見直し、誰もが働きやすい職場を目指してほしいと思います。



(※)出典 ・「2018年度 新入社員 春の意識調査」公益財団法人日本生産性本部 ・「令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 報告書」株式会社日本能率協会総合研究所                                                          

(2021年10月)

梅本公子先生

著者:梅本公子先生
特定社会保険労務士
梅本社会保険労務士事務所代表