特集 働く女性と生理休暇

企業取組事例:大和リース株式会社

女性工事職の提案で生理休暇の改称のほか、生理休暇を多角的に改定。
男性が多数を占める職場でも、さまざまな媒体を利用した周知活動を重ねることで
生理休暇への理解・利用促進効果が高まる。

大和リース株式会社
企業名 :大和リース株式会社
業種 :建築・不動産業
本社所在地 :大阪府大阪市
企業規模 :2,368人(男性/ 1,780人・女性/ 588人)
※2024年2月時点
設立年 :1947年
(取材日:2023年10月3日)

【お話を伺った方】

上席執行役員 人事部長 佐伯 佳夫 様

広報宣伝部長 兼 人事部 インクルージョン推進室長 岸田 佐和子 様

生理休暇改定のきっかけは女性工事職の環境整備プロジェクト『DLあかつき小町』メンバーからの要望

2019年に『DLあかつき小町』(DLあかつき小町のDLはDaiwaleaseから取りました)という、工事職に就いている女性技術者が建築現場で働きやすく、やりがいをもって活躍できるように環境等を整備するプロジェクトが発足しました。女性技術者、施工推進部と、人事部内のインクルージョン推進室のメンバーが、さまざまな職場環境の改善について話し合って出した意見や要望を、人事部が正式に議論し、実際の施策に落とし込んでいます。このプロジェクト発案でこれまで実現したものとしては、工事現場での女性専用トイレや更衣室の設置、女性の体形やサイズを考慮したヘルメットや長靴などの制服の改善等があります。生理休暇についてもその『DLあかつき小町』から要望があり、2022年の4月、改定に至りました。『DLあかつき小町』には、いつでも意見を出してほしいと常々伝えていたので、今回の声につながったのだと思います。

改称や月経前症候群(以下「PMS」という)への適用、賃金規則の変更や半日・時間休の導入など多岐にわたる施策を講じた結果、生理休暇取得回数が制度改定前の約18倍も増加

改定の内容としては、まず生理休暇という名称から「M休暇」(M=Menstruation:生理を意味する英語の頭文字)という名称に変更しました。生理休暇を取得したくても、生理という言葉を使わなければならないことが心理的負担になり、結局取得できない、ということがあったようなので、そこを解消するために名称変更をしました。
また、就業規則を変更し、生理時の不調に加え、PMSでも休めるようにしました。
そして賃金規則も変更しました。M休暇とする前から生理休暇は有給休暇ではあったのですが、賞与の計算において、当時は欠勤扱いとなっており、生理休暇を取得した場合、賞与に減額の影響がありました。そこで、生理というのは個人差はあるものの生理的現象であり、当人の責めに帰するものではない、という考えから、賞与額算定時の扱いを変更し、出勤扱いとしました。
さらに、これまでの生理休暇は1日単位での取得しかできなかったのですが、M休暇では半日休、2時間休も導入しました。
これらの施策の効果で、生理休暇としての取得率はM休暇導入前は年間取得回数が全社員のうち、延べ15回だったのに比べて、M休暇導入後には年間取得回数が264回と飛躍的に増加しています。

生理に関する研修動画は女性からも男性からも好評、相互理解が深まる契機に

生理休暇を改定するにあたり、産業看護師が生理について説明をする研修動画を男性を含めた全従業員と役員に視聴してもらいました。当社は男性従業員の比率が高く、生理の話となると、男性からの抵抗感が出てくるかもしれない、と若干不安もあったのですが、研修後のアンケートを見ると、「上司として知っておいて良かった」等、前向きなコメントが非常に多く驚きました。研修自体が、科学的な分析に基づいた内容だったので、男性にとっても理解しやすかったようです。
女性からも、「自分の生理のことしか知らなかったけれど、実際はかなり個人差があるということが分かった」など、相互理解につながるようなコメントを多くいただきました。生理が重い人も、自分が辛いと感じるなら辛いと言って良いんだ、という意識になれたのではないかと思います。

理解と利用促進のためには何度も情報に触れることが大切、
社内報やメールで「生理とはなにか」を繰り返し発信

M休暇を導入した際、イントラネット等で通達を出しましたが、それ以外にも社内報の「インクル通信」でM休暇を取り上げ、制度の紹介だけでなく、これまでの生理休暇がなぜ取得しにくかったのかや、なぜ制度改定が必要なのか、生理に伴う症状や、必要な配慮の方法など、詳しく説明したものを発行しました。これはイントラネットでも読めますし、紙媒体でも配布するので、複数回目にする機会があり、制度が浸透しやすくなる要素でもあったかなと感じています。
また全従業員向けに毎月送付するメールでも、「生理とはなにか」というトピックをしつこいくらいに挙げていました。社内メールは見過ごされることもないため、制度周知の有効な手段として活用しています。

社内報「インクル通信」でM休暇について詳しく解説。 社内報「インクル通信」でM休暇について詳しく解説。

会社の多数を占める男性の理解を促進することが制度運用には必須

制度導入の際に注意した点としては、建設業自体が男性が多い社会なので、上層部を含めて男性陣の理解を深めていくことを意識しました。M休暇を取得したい、と伝える相手も男性上司が多いですし、管理職層に理解してもらうことで制度が浸透しM休暇を取得しやすい環境になります。なのでまずは彼らの意識を変えてもらうということが重要です。「月経に伴う不調を正しく理解し適切な配慮をすることで、個人と組織のパフォーマンスを最大化できる」といったことを伝えていくと、「こういう取り組みが福利厚生として意味があるだけでなく、成果を上げることにもつながる」と認識してもらいやすいようです。

M休暇のほか、女性の健康プログラムを通して相互理解を深める取組も、
全従業員が仕事で活躍できる「全員活躍」につながる

また、生理関連の取り組みとして、M休暇の改定に加え、女性の健康プログラム(フェムテック月経プログラム)を開始したことも、M休暇への理解・利用促進につながっていると感じています。これは男性を含めた全従業員向けのセミナーと、20代~30代の女性従業員のうち、希望者へのオンライン相談・診察や低用量ピル処方等を実施するプログラムです。
こうしたセミナーを通じて生理など、女性特有の健康課題のリテラシーを男女ともに向上させることで、相互理解が深まりますし、当社がこだわっている、全従業員が仕事で活躍できる企業風土の構築、「全員活躍」につながると考えています。これまでも「従業員の幸せ」と「会社の幸せ」をともに高めることを目的として、各種制度を段階的に見直してきました。今後も働きやすさ(環境)の実現と、働きがい(キャリア・成果)を追求し、ワクワクできる会社作りを進めていきます。

生理休暇取得状況 ※年間の延べ回数

M休暇導入前 :15回(2021年度)
M休暇導入後 :264回(2022年7月~2023年6月の1年間)
※2022年6月に通達し、7月より運用開始。