専門家コラム

職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)について

職場のハラスメントには主に、パワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、 妊娠・出産に関するハラスメント(マタハラ)があり、3大ハラスメントとも呼ばれています。
これらのハラスメントは、従業員の心身に深刻な影響を与え、働く女性の健康にも大きく関わる重大な問題です。企業にとっても、職場環境の悪化や生産性の低下、 人材流出などを招き、その損失は計り知れません。特にセクハラやマタハラについては、性別役割分担意識に基づく言動が要因となることもあるため「女性である」ことで受ける被害も多く、働く女性にとって切実な問題となっています。 また、3大ハラスメントを含む職場の「いじめ・嫌がらせ」に関する都道府県労働局への相談件数も年々増加しています。

このような背景を踏まえ、3大ハラスメントについて法改正が行われ、2020年6月1日に施行されました。
パワハラについては今回初めて明文化され、セクハラやマタハラと同様に相談体制の整備などの防止措置を講じることが義務づけられました(中小事業主は2022年3月31日まで努力義務)。セクハラやマタハラについても、 相談したこと等を理由とする不利益取扱いの禁止を明記するなど防止対策が強化されています。
注)上記改正には育児休業等に関するハラスメントの防止対策強化も含まれています。

職場のハラスメントを防止するため法整備が進められているところですが、日本労働組合総連合会(連合)が2019年に実施した調査によると、職場でハラスメントを受けたことがある人(全体の38%)のうち44%が「誰にも相談しなかった」と回答し、 相談しなかった主な理由は「相談しても無駄だと思ったから」としています。

相談体制の整備は、ハラスメントの予防や事後対応のためにも重要な役割を果たすことからハラスメント対策の措置義務のひとつとなっており、相談窓口の設置および周知、相談窓口担当者が適切に対応できるようにすることが求められています。 前述の調査の回答からも、その実効性の確保について留意する必要があることが分かります。

相談窓口の設置にあたっては、相談内容の秘密が守られることや相談者が不利益な取扱いを受けないことが必要であることなどから、相談窓口の中立性・公正性が求められます。場合によっては、社外の専門家等との連携や行政の相談窓口の利用も考えられるでしょう。 また、対応のプロセス(解決までの流れ)を明確にすること、男女とも含めた複数担当者の配置、人事部門と各部署など複数の窓口設置、面談のほか電話やメールでも相談可能とすることなど、それぞれの職場の実態に合わせた工夫が有用です。社内アンケートなどにより 従業員から意見やアイディアを募ることも良いでしょう。

実効性の確保のためには十分な周知も欠かせません。従業員が毎日利用する場所(トイレや休憩室等)や閲覧サイトなどに掲示し、プライバシーの確保や相談により不利益な取扱いを受けないことを併せて記載するなど、誰でも安心して相談できるよう配慮することも重要です。 また、担当者が適切に対応できるよう、相談マニュアルの作成や定期的な研修等を行い、人事担当者などとも連携がとれるような体制づくりが必要です。

なお、相談体制の整備については、必ず講ずべき措置のほか望ましい取組として、パワハラ、セクハラ、マタハラ、その他のハラスメントの相談について一元的に応じることができるようにすること、他社の従業員等(就活生、個人事業主などを含む)が自社の従業員から受けた 言動についての相談にも適切に対応できるよう努めることが厚生労働大臣の指針に定められています。

ハラスメント対策は、法律で義務化されたから仕方なく行うということでは効果は期待できません。働く人の健康や人権を守り、働きやすい職場環境を整えることが目的であることを労使ともに理解することが重要です。ハラスメントのない良好な職場環境の実現のために何が必要なのかを 労使で十分に話し合いながら、それぞれの職場の実情に即した形でできるところから取組み、定期的に見直しを行うと良いでしょう。
                                                         

(2020年10月)

梅本公子先生

著者:梅本公子先生
特定社会保険労務士
梅本社会保険労務士事務所代表