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専門家からのアドバイス 働く女性の身体と心を考える委員会より

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公益財団法人 日本生産性本部 参事 北浦正行 介護施設の人材確保に母性健康管理の視点を

特別養護老人ホームなど介護施設においては、一人で複数の利用者をケアするとともに、夜勤も含めて交替制勤務が不可欠であるなど、過密な業務が続くことが多い。そのうえ、職員数も施設の人員基準ぎりぎりのところで運営しているところも多く、退職などによってわずかでも欠員が出れば、現在の事業規模を維持することも難しい施設も生じている。
  こうした中で、今回のヒアリング対象となった各施設の事業主は、いずれも介護職員の就業継続の必要性を強く感じており、また職員も介護の仕事に生きがいを感じ、施設に働き続けることへの強い意欲を持っている姿勢が見られた。人事管理面での対応についても、キャリアパスを明示して就業意欲を高めるとともに、短時間勤務制度の導入など復職時における配慮を行うといったワーク・ライフ・バランス施策が重視されている。
  今回の調査の中心となる母性健康管理の対応も大きな課題である。具体的には、作業制限の範囲をどう定めるかという問題があるが、ヒアリング結果によれば、体調などに個人差があるため一概に定められないこと、ルール化しすぎるとリーダーの配慮がなくなること、細かくしすぎると却って対応しづらくなることなどの意見が指摘されている。
このことは、現場のフロアー長・ユニットリーダーについてもいえよう。実際、日々の良好な職員間のコミュニケーションを心がける中で、「表情から体調がわかる」など個人の様子を自然に把握し、体調や負担を考慮した指示をその都度出すリーダーも見られる。
  しかし、個別対応によって済んでいるのが実態だとしても、禁則や注意事項を明示するなど作業制限のある程度のルール化は不可欠ではないか。それは、公平な取り扱いの必要性、作業の予見可能性、あるいはリーダーの判断に依存しすぎる危険の回避などの点からも考慮が必要だ。このほか、リーダーが男性職員など直接の妊娠・出産の経験のない場合には、日頃の対話などを通じて本人の状態を確かめながら慎重に対応していく配慮も求められよう。
  軽易な業務への転換も重要な対応である。しかし、他の部署での業務に転換することに対しては、賃金面など処遇上の問題が絡むだけに必ずしも積極的とはいえないようである。このため、同一の部署の中で軽易な業務に就くか、負担の大きい作業を免除するという形が多いが、そのことによって負担をかける同僚の心情が気になる人も少なくない。日頃からの職場でのコミュニケーションを円滑にし、職員相互の扶助意識を醸成することが重要な所以だろう。
  夜勤対応については、それが正規職員になるためのそもそもの条件であることが多いが、このために、施設側と職員の双方ともに最も難しい課題との受け止めがある。ローテーションやシフト勤務の工夫による対応などが必要になろう。このことは、育児休業からの復帰時にも大きな問題となる。夜勤対応ができない場合には、夜勤手当等の支給がなくなることもあるが、正規職員のまま他業務に転換したり、パートタイムや準職員といった形での待遇に変わったりするなど、職員のキャリア設計にも関わってくることにも留意しなければならない。
  介護施設の安定した経営にとって、そこに働く職員の確保・定着は不可欠の要件である。そのためにも、育児休業や復帰後の仕事と育児の両立支援はもとより、その前段としての妊娠から出産に至る時期にも安心して働けるような環境づくりを進めなければならない。

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