長井聡里 委員
産業医 すてっぷ産業医事務所 所長
IT業界の従業員には、いわゆるVDT作業者、長時間労働の残業の面談をする対象者というイメージが強く、そこではあまり性差を意識しませんが、面談対象者に妊婦さんが来られたときに「なぜそこまで無理するのだろうか」という印象がずっとありました。それがこの調査結果からも端々に出てきたように思います。IT業界は、労働衛生上、性差に関する考慮が比較的必要ないと思われてきた業種なのです。
通信調査では、母性健康管理の措置実施についての設問で「申し出があれば実施する」とあるのですが、「そもそも申し出ない」という裏の実態があることが、裁量労働の最たるものだと思います。ヒアリング調査でも裁量労働制のため休憩時間という概念を持たないという意見があり、印象的でした。
事業所調査は概ね大企業正社員の回答ですので、制度も設備も整っている、という結果になることは否めませんが、それでもやはり、34週未満の早産の方の休憩場所が確保されていなかったり休憩回数が少なかったりという結果が出ています。女性労働者の申し出だけに頼ってはいけませんよと、あえて言っていかなければいけないところです。
人事労務も申し出がなければ問題ないだろうと現場に任せきりになりがちです。ただその現場は多くの場合、直属上司はその場にいないわけで、同僚らがどの状況でフォローすべきかわかっていてチームワークでカバーできる状態なら良いのですが、なかなか難しいと思います。ヒアリングの結果からも、「計画的に仕事をして、何かあった時には引継ぎできるよう準備している」という回答が多く、本人次第で、周囲もギリギリまで頼ってしまいがちです。身体的負担の大きい職業と違って、本人たちも自覚する疲労などは感じにくく、座ってさえいればお腹も楽だから大丈夫となりがちです。我々は産業医として、本人の自覚に任せず、妊婦健診での胎児の発育状態に思いを馳せ、「お腹をいたわって休憩取りなさいね、早く帰って睡眠第一ですよ」など、あえてひと声かけることを心がけたいものです。
駐在先で休憩場所がなくても我慢してしまいがち
休憩場所については、自社で作業をする場合と異なり、駐在先では遠慮するだろうことは十分想像できます。駐在先の産業医としても、「駐在の方たちにも使ってもらいやすい休憩場所ですか」と巡視の際に言って回っているかというと、少し言葉が足りなかったかもと反省するところです。妊婦さんが我慢してしまうのを「そうではないですよ、世の中から祝福され歓迎され保護されるべき存在なのですよ」と訴えていきたいと思います。
男性の家事・育児の参加については、今回、初めて調査項目として取り上げてみて、家事労働がカバーされると、残業が多かろうが少なかろうが、女性にとっていい傾向がしっかり結果に出てくることを実感できました。
若い世代の男性社員たちは家事・育児に関心も高く行動していますよと企業側がアピールしていくことも、成長産業であるIT業界の人材確保には必要だろうと強く思います。