特集 企業取組事例

〜女性も男性も健康でイキイキ働く企業の取り組み〜

健康支援とワーク・ライフ・バランスの推進を両輪に取組を推進
ワーク・ライフ・バランスの実現が従業員の健康行動にも影響を与えている

健康支援とワーク・ライフ・バランスの推進を両輪として取組を推進。ワーク・ライフ・バランスの実現により、従業員が健康について考え、行動に移す余裕が生まれ、相乗効果を生んでいる。

株式会社東邦銀行

業種 : 銀行
本社所在地 : 福島県福島市
従業員数 : 2,769人(2022年10月1日現在)

お話を伺った方

株式会社東邦銀行
人事部

村上 将臣 様
健康保険組合

高野 浩美 様

企業の健康支援に対する考え方について

従業員の健康支援に取り組むことになったきっかけを教えてください。

健康管理を経営的視点から戦略的に実践する“健康経営”に取り組むようになったのは、「健康優良法人(※)」認定取得を目指すために、体制整備したことがきっかけです。6年程前に全行的に取組み始めました。データヘルス計画を始動し、銀行と健保で協力してデータの見直しや体制を整えることから着手しました。データヘルス計画は現在2期目となりました。

(※)経済産業省の健康経営優良法人認定制度により顕彰される優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人
健康支援に対する企業の理念や基本的な考え方を教えてください。

当行では健康支援と並行して、ワーク・ライフ・バランスの実現に力を入れています。 「人を大事にする経営」の考えのもと、健康宣言を制定し、ワーク・ライフ・バランス推進、従業員およびその家族の健康増進を目指しています。

とうほう・みんなの健康宣言
「東邦銀行は“人を大事にする経営”を実践し、ワーク・ライフ・バランスの先進的かつ継続的推進により、従業員およびその家族の心身の健康増進に積極的に取り組みます。」

女性特有の健康支援について

女性特有の健康支援のために取り組んでいることはなんですか。

婦人科検診費用の無料化、巡回バスによる乳がん検診の実施

乳がん検診・子宮がん検診については、人間ドックで受診の際や各市町村で受診する際に東邦銀行健康保険組合(以下、健保)から全額補助を実施し無償化しています。

5年間の医療費データの分析を行った結果、乳がんに罹った人が多かったため、できるだけ検診機会を増やそうと巡回バスによる乳がん検診を実施しています。健康診断などを行う機関に外部委託し、本店や事務センターなど比較的規模の大きなブロックにバスを派遣してもらっています。バスが巡回することで、仕事の合間に受診することが可能となり、利便性が高くなりました。年間500人程が受診をしています。

女性専用健康相談窓口の設置

女性の保健師による、女性専用の健康相談窓口を設置することで、安心して相談できる体制を整えています。

妊産婦向け心の健康チェックサービス

産休、育休取得者を対象に昨年度より試験的に実施しています。スマートフォンでアンケートに回答し、不調を抱えている人がいれば、オンラインで医師との面談が受けられるというシステムです。対象者には案内を送付したり、イントラネットでも紹介したところ、対象者の3割がサービスを利用してくれました。当行での回答率は同サービスを実施する他団体(自治体等)よりも高かったようです。スマートフォンでアンケートに回答する方法なので、利用しやすい点も回答率につながったのだと思います。

取り組もうとしたきっかけは何ですか。また、行動計画に記載した理由を教えてください。

健保が、第二期データヘルス計画の策定にあたり実施した外部委託による健診・レセプトデータ等の結果を分析したところ、「被保険者に占める40~60才の女性比率が高い」、「婦人科系疾患の医療費が増加」、「乳がんの患者数が5年間で30名以上(被扶養者含む)」ということがわかりました。乳がん検診の受診勧奨など、健康支援の取組は分析結果に基づき検討し、実施しています。

女性活躍推進法に基づく行動計画は現在2期目になります。まずは仕事と家庭の両立に重点を置いていましたが、妊娠・出産を含めたライフイベントや介護、資格取得等個人の事情も考慮できるようにと、働き方と休み方にも焦点を当て、現在の行動計画を策定しました。

そのため、行動計画の取組内容には両立支援、育児支援のほか、健康セミナー、介護セミナーの実施や健康専用相談窓口、検診体制の充実なども盛り込まれています。

次期の行動計画を策定するにあたっては、より具体的な健康支援策を盛り込むことができれば、より良い計画になると考えています。

取組の中で工夫されたこと、大変だったことを教えてください。

婦人科検診の必要性は様々な方法で周知を行ってきました。婦人科検診の必要性と補助制度についてのパンフレットを定期健康診断の受診票に同封しています。また、行員向けセミナーや機関紙等でも婦人科検診の必要性を周知しています。

以前は婦人科検診を定期健診の項目に入れることが難しかったため、できるだけ市町村の検診制度を使って受診してもらうように案内をしていました。当時、乳がん検診、子宮がん検診を受けているかアンケートをとったことがあります。7割の人が2年に1回受けていましたが、子宮がん検診(対象年齢:20歳以上)は、若い世代の受診率が低いという結果が出ました。制度があるのに、なぜ受診しないのか理由を聞いたところ、「休みを取って行きづらい」、「医療機関まで受けに行くのが難しい」という回答がありました。その調査結果を銀行に提出したところ、検診の際に休暇が取得できる「健診休暇」制度が設立されました。

どんな効果がありましたか。
乳がん検診の受診率は着実に上がってきています。従業員へ検診の補助金を支給する割合は増えており、受診者が増えている実感があります。

従業員に対する健康支援について

従業員(男女問わず)の健康支援のために取り組んでいることは何ですか。

検診の受診勧奨、費用補助

全従業員に対し、一定年齢の対象者に対し人間ドッグの受診勧奨をしています。 また、精密検査を受診する場合は、費用補助を行っています。

有給休暇取得促進のための制度休暇

上期(4月1日~9月30日)、下期(10月1日から3月31日)でそれぞれ1回ずつ平日5日、土日含めて7日間の連続休暇を取得できる制度を設けています。用途は指定せず、有給休暇を取得促進のため導入しています。個人の事情によって5日間連続で休暇を取得することも、分割して取得することも可能です。制度を導入した当初は人繰りに苦労し、現場では戸惑いもありました。しかし、制度が発足して年数が経ち、管理者も従業員も理解が進み、お互い様で気兼ねなく休める業務運営、雰囲気が醸成されていきました。

柔軟な制度運用による妊活支援

従業員が長く安心して活躍できるキャリア形成支援のため、「キャリアサポート休職制度」を導入しています。キャリアサポート休職制度とは、資格取得・留学、妊活、配偶者の転勤への同行、その他ライフイベントの事由で退職することなく、スキルアップや個人のライフイベントに対応できる制度です。半年~1年(事由により最大3年)取得することができます。当初は、難易度の高い資格を取るための休暇制度として導入しましたが、昨今妊活をする人が増えたことで、妊活のための休職にも利用されるようになりました。制度を周知した成果もあり、妊活を目的に休職している人は徐々に増えており、現在5名の女性従業員が制度を利用して休職しています。一定の期間に集中して治療を行いたいという場合は、この制度を利用して休業することができます。

一方で、働きながら治療と両立したいという職員もいます。その場合は、フレックスタイム制が利用できます。当行ではフレックスタイム制を導入しています。通常、フレックスタイム制においては、コアタイムを設定している場合がほとんどですが、当行ではコアタイムもなくしているので、現場の所属長の承認があれば、病院に行くために数時間早く退社するといった運用も可能です。集中的に治療する人、働きながら通院する人、それぞれの意向によって、制度を活用し、柔軟に対応できるようにしています。

メンタルヘルス対応(EAP窓口の設置)

実績として、当行では年間300~400名の相談があります(2021年度実績)。相談内容は明かさないということを周知しているので、気軽に相談ができるようです。

所属する部署の上司や年齢が近い同僚に悩みを聞いてもらう機会があればいいのですが、コロナ禍により業務以外でのコミュニケーションの機会は減少しています。そこで、「1 on 1ミーティング」を行い、仕事のこと、仕事以外のことも含めたミーティングの機会を銀行として設け、コミュニケ―ションの手段として推進しています。メンタル不調を未然に防ぎ、モチベーションの維持に繋げてもらう目的ですが、やはり行内の関係性の中では、本音が言えないこともあります。そういったときの相談先として、外部機関と連携し、窓口を設置することは必要です。本音で相談ができ、適切なアドバイスが得られる場所として、従業員には相談窓口の利用を周知しています。

ウオーキングイベント、WALK BIZ

健保が実施するウオーキングキャンペーンを行っています。各自ウォーキングした歩数を健保に申告することで、成績上位者にギフトカードを進呈する企画を長年実施しており、多くの職員が参加しています。

また、スニーカー等歩きやすい靴を選んで通勤するワークスタイル「TOHO WALK BIZ」を実施しています。当行では、TPOに配慮していれば、男女ともに服装は自由です。靴についても、革靴でなくてはいけないということはありません。WALK BIZを実施することで、スニーカーで通勤する職員が増え、通勤方法が変わったことを実感しています。

どんな効果がありましたか。

精密検査受診費用の補助と、健診休暇の創設により、精密検査受診率は高い水準を保っています。休暇に名前を付けたことによって職員が気兼ねなく取得できるようなりました。管理職にも、人間ドックや精密検査受診の際には健診休暇を使うことを推奨しているので、職員も遠慮せずに取得ができます。「精密検査は健診休暇を取得する」といった意識が浸透し、受診しやすい環境が整備されました。

また、ワーク・ライフ・バランスを推進してきたことで、以前に比べると総労働時間数が着実に減ってきており、主に管理職を務める中高年層が、自分の健康について考える余裕ができました。以前は業務量が多く、休日も出勤せざるを得ないという状況も生じていました。しかし、デジタル化や自動化など業務の効率化が進み、ワーク・ライフ・バランスについての経営陣の理解もあり、労働時間は大幅に短縮されました。健康について考え、ウォーキングやマラソン等のイベントにも参加する余裕が持てるようになりました。長きに渡ってワーク・ライフ・バランスに取り組んできた効果が健康への取組にも現れています。

今後の課題や展望があれば、教えてください。

休暇制度については、これまで職員のニーズに応え、創設してきました。ただ、休みを取得することで周囲の業務負担が増え、制度があっても使いづらいという状況にならないように、銀行業務のDX化、効率化も併せて進めていかなければいけないと考えています。総人口が減少していっている中、職員数が年々減少していくことが予想されています。そういった中でも職員一人一人が気兼ねなく休暇を取得できるようにするために、業務効率化は喫緊の課題だと感じています。

時代の変化によって新たなニーズが出てくれば、速やかに制度を創設するという方針には変更はありません。制度創設の検討は積極的に行っていきますが、中長期的に如何に運用していくかというところが課題だと感じています。

これから女性の健康支援に取組もうとしている企業に、まず何から取り掛かったらいいか、アドバイスがありますか。

会社として動くことが必要だと考えます。そのためには経営トップの理解は必要不可欠です。また、銀行と健保の連携も重要だと考えます。会社と健保は、どちらも従業員が対象なので、協力しあって取組を実施することが大切です。健保でデータヘルスワーキンググループを作っているのですが、銀行、関連グループ、労働組合、健保も参加し、協力して従業員の健康を考えるワーキンググループにしたいと考えています。銀行が主導権を取りつつ、銀行と健保がお互いに事業に協力し合うことが重要だと考えています。