特集 企業取組事例

〜女性も男性も健康でイキイキ働く企業の取り組み〜

健康を土台として、社内の環境や意識、関係性作りへとつなげていく"Connect for Well-being"のスローガンを掲げ、「健康人財」であふれる会社へ

創業当時より一貫して社員が心身ともに健康であるための取組を実施。様々な健康施策により、社員自らが健康について考えるための「きっかけ」の場をつくっている。

健康を土台として、社内の環境や意識、関係性作りへとつなげていく"Connect for Well-being"のスローガンを掲げ、世の中の健康・Well-being(ウェルビーイング)を支えていく「健康人財」であふれる会社を目指す。

ロート製薬株式会社

業種 : 医薬品、化粧品、健康食品他の製造販売
本社所在地 : 大阪府大阪市生野区巽西1丁目8-1
従業員数 : 全体 1599 名/
男性 671名/
  女性 927名
(単体、2022年3月)

圓尾 奈緒美様 阿子島 文子様

お話を伺った方

ロート製薬株式会社
写真右:人事総務部
健康経営推進グループ
リーダー
圓尾 奈緒美様

同左 :広報・CSV推進部 兼 
未来社会デザイン室
阿子島 文子様

企業の健康支援に対する考え方について

従業員の健康支援に取り組むことになったきっかけを教えてください。

弊社では、「健康経営」という言葉が広まる前、創業初期の考え方として社員とその家族の健康を大切にする文化がありました。大阪本社は、社員の健康を願う思いから、芝生やプール等を備える「ロートユートピア」として設立されるなど、創業時から社員の健康支援に取り組んできました。

弊社は健康や美容をテーマとした製品を提供していますが、働く社員が健康でなければお客様にお届けすることはできません。社員一人ひとりが健康になることで世の中に健康の価値を提供することができる、健康の輪が広がるという信念のもと、「Well-being経営」の実現に向けて、まずは社員が健康であるための取組みを行っております。

健康支援に対する企業の理念や基本的な考え方を教えてください。

弊社は「まず人がいて、輝いてこそ会社が生きる」、「主役は人」という精神が創業当時から受け継がれています。
‘健康’は、単に病気でない、ということだけではなく、心身の健康を基盤として、情熱(働きがい・生きがい)をもって日々の仕事に取り組むことができてこそ‘真の健康’であり、そういった社員が世の中の健康を支えていく「健康人財」であると考えています。
社員が健康でイキイキと、Well-beingな状態で仕事に取組み続けられるため、社員が自ら前向きに健康であり続けようとする「きっかけづくり」に注力して健康人財の育成を行っています。このような人財のポジティブなエネルギーが世の中に伝わり、社会そして次世代へと健康の輪を広げていくことができると考えています。
社員が健康になると、家族も健康になり、取引先にも派生すると考えています。まずは社員が健康でイキイキ働くことがベースであると、様々な場面で発信しています。

女性特有の健康支援について

女性特有の健康支援のために取り組んでいることはなんですか。

女性の健康、妊活、更年期等セミナーの実施

貧血や妊活、更年期障害等、女性の健康に特化したテーマで社員向けセミナーを年に数回実施したり、学びのプラットフォームのコンテンツとしても取り入れています。テーマに関わらず、男性社員、女性社員全員に案内して、参加を促しています。
研修のテーマは、アンケートをとって社員のニーズが高いテーマから選んでいます。世の中の流れや女性向けの商品発売のタイミング、法律が変わるタイミング等も考慮しています。
妊活のセミナーは女性のライフイベントに沿った悩みやホルモンの変化などについてのセミナーを行った後に実施しました。講師から不妊治療の現状や弊社の最新の研究から得た知見、商品の紹介を行いました。

更年期については、女性だけでなく男性更年期について男性社員からの問い合わせが増えてきています。健康管理室の産業医、保健師からの提案を受け、今後男性更年期についてもテーマとして取り上げることを検討しています。

貧血のサポート

不定愁訴を訴える女性社員が多く、改善プログラムに着手しました。不定愁訴の原因は様々ありますが、貧血は原因の一つとして考えられます。貧血は対策が取りやすく、改善状況も確認しやすいため、まずは貧血改善にターゲットを置き、取組みを行いました。
鉄分摂取や食事の改善についてのセミナー等を実施し、リテラシーの向上を継続的に行っています。貧血を訴える人にはサプリメント購入の補助なども行っています。

ライフイベントに関する相談、座談会、セミナー等の実施

女性のライフイベントを、健康という軸を通して俯瞰的に見る必要があると考えています。女性の健康を一生で眺めた時、ライフイベントによって躓くことがあると予測しておくと、健康面でも働き方の面でも自身でコントロールがしやすくなります。健康そのものだけでなく、仕事との両立支援も健康経営の一部としてサポートの充実を図っています。

弊社は産休育休を取って復帰する社員が100%で、復帰して仕事を続けることが当たり前になっています。先輩社員から若い世代に対して、職場復帰や子育てにあたって知っておいてほしいことなどを伝えたいという思いがあり、座談会などでは先輩社員がスピーカーとなって話してもらっています。

実施している相談、座談会、セミナー等:

  • 妊娠中の健康相談(希望者)
  • 育休復帰前の座談会
  • 社内ママのランチトーク会
  • ライフデザインセミナー(男性社員、女性社員に関わらず実施)

顧問助産師サポートサービスの導入開始(2022年~)

弊社専属の社外の医療有資格者(看護師、保健師、助産師)へ妊活・妊娠期間中・出産・産後・育休復帰など様々なお悩みを24時間、365日LINEチャットでの相談ができるサービスを新たに導入しました。性別、雇用形態に関わらず弊社で働く方はみんな無料で利用できます。産前産後休暇、育休期間中の利用といった妊娠出産だけでなく、更年期ケア、メンタルなど健康全般に幅広くご利用いただけるサービス支援となっています。

取り組もうとしたきっかけは何ですか。また、行動計画に記載した理由を教えてください。

弊社では女性社員比率が6割を超えており、女性の産休取得率・育休から復帰する割合ともに100%を維持しています。女性がイキイキと健康で働き続けられることは必須です。もちろん女性に限定しているわけではなく、社員をサポートする仕組みを考える中で、その一環として取組みを行っており、男性の育休取得率の向上にも力を入れています。また、弊社では女性向けの商品も多く扱っているので、男女関係なく健康リテラシーを上げていきたいと考えています。

行動計画に掲げる目標も、女性だけに限定しているわけではありません。例えば、退職者の再雇用制度を行っており、女性の利用率が高い傾向にありますが、現状として介護等で離職するのが女性の方が多くなっているためです。女性に限らず全社員への制度として実施しています。

在宅勤務に関しても、昨今のコロナの影響により活用が高まりましたが、以前から柔軟な働き方への要望があったため実施してきました。男女に限らず制度を利用できますが、比較的女性にとって、柔軟な働き方の幅が広がることになりました。

取組の中で工夫されたこと、大変だったことを教えてください。

個人によって取り巻く状況等が違うので、会社全体の取組みとして伝わりにくいところがあります。たとえば妊活などのセミナーは、結婚する・しない、子どもがいる・いないによっても個人の受け取り方が異なる場合もあります。セミナーの内容や性質によって案内対象を検討することもありますが、パートナーや子ども、孫など家族、職場の同僚を含めて考えると、まったく関係ない人はいません。受講はあくまでも個人による選択ですが広く案内していきたいです。特に管理職はチームのメンバーのためにも理解することが必要ですので、個別に参加を促しています。
また、弊社の場合はヘルスケア企業として、女性や子ども、若者を対象にした商品も多くあり、仕事に直結するので是非知っておいていただきたいとアナウンスしています。興味を持つ人は日々増えていると感じます。「身近なことなのにこれまで知らなかったことを知れた」、「アップデートされていなかった情報を得ることができてありがたい」というコメントをいただきました。

どんな効果がありましたか。

制度そのものの効果だけではなく、日々のつながりや情報共有、小さなことでも相談できる環境が心理的安全性にもつながっています。また、座談会やセミナー、相談などで新しい関係性が広がっており、Well-beingにつながっていると感じます。

従業員に対する健康支援について

従業員(男女問わず)の健康支援のために取り組んでいることは何ですか。

運動機会の提供

  • ウォーキングイベントの実施
    全社員に配布し普段から身に着けている活動量計を活用し、年に数回ウォーキングイベントを実施しています。競いあうことで普段よりも歩こうというやる気につながり、コミュニケーションの活性化にもつながっていますので継続的に行っています。
  • オンラインを活用した体操の実施
    全国どの拠点でも、朝の始業時に全社員が集まって体操をしています。拠点によっては運動器具を設置していたり、立って仕事ができるデスクを置いていたりと、日常的に体を使う環境を整えています。
    以前は拠点だけで行い、在宅勤務の社員は個人で体操をしていましたが、リモートワークが盛んになり、異なる拠点の社員同士がオンライン上で一緒に実施できるようになりました。ともに体操をすることでコミュニケーションの活性化につながりました。自宅から、お子さんと一緒にオンラインの体操に参加する社員もいます。
  • 運動会の開催、体力測定の実施
    運動会はオリンピックのように4~5年に一度実施しています。全拠点の社員が大阪本社や総合体育館など1つの会場に集まり、その年の有志による実行委員が工夫を凝らして考えた種目を実施します。2022年は全世代の社員がともに参加できるようモルック(木製のピンを投げて倒す競技)やeスポーツ 、綱引き等をそれぞれ選択しチーム戦を行いました。
    運動会で生まれたつながりが仕事に役立つこともあり、チームはあえて部署を越えて編成したり、誕生月で分けたりして混成しています。普段、目立たない社員が輪の中心になることもあり、体を動かすだけでなく、コミュニケーションの向上に役立っています。
    年1回の体力測定も続けています。健康診断はマイナスの部分が目立つのに対し、体力測定は、日々取り組んでいたことの成果を実感するといった意味があります。年に1回必ず実施することで、自分の身体の変化に気づくきっかけづくりにしています。

運動会の様子1

運動会の様子2

運動会の様子3
運動会の様子

社内健康通貨『ARUCO』の導入

「歩こう」「コイン」「ロート(R)」等の発想からネーミングされた社内健康通貨『ARUCO』を導入しています。全社員に活動量計を提供しており、1日8000歩/速歩20分を目標としています。その目標を達成すると都度ARUCOコインが付与され、貯めていくことができます。他にも、体力測定に参加して良い結果が得られれば付与されたり、卒煙達成により獲得出来たりと、健康のために実践したことでコインが付与される仕組みです。ARUCOのシステムを社内で構築しており、社内の端末や携帯のアプリからデータを読み込み、社員はイントラネットで自分のコインがどれくらいたまっているかを閲覧できます。

獲得したコインはシステム内のメニューから自分で使用目的を選択して使うことができます。健康グッズや健康診断のオプション費用等に交換できたり、社内で健康を考えて作られた鉄分入りゼリーと交換することも出来ます。

ウォーキングデータ
システムで個人の日々のウォーキングデータが確認できる

健康リテラシーを高めるクイズの実施

毎朝、全社員に対し、健康に関するクイズを配信しています。毎日クイズに答えることで、少しずつ健康リテラシーを向上させることが狙いです。
内容は、例えば防災の日にはAEDの使い方に関するものを取り上げたり、ピンクリボン週間には女性のがんに関するもの、健康診断の前には検査はどういう人におすすめか、メタボ判定についてなどを出題しています。レベル感は様々ですが毎日健康情報を提供し、答えてもらうようにしています。

クイズの内容は基本的には健康経営推進グループ4名で作成しています。他の部で健康誌が刊行されるタイミングで関連するクイズを作成してもらったり、弊社商品に関するクイズを考えてもらうこともあります。できる限り多くの人を巻き込むことで、実践率が上がるようにしています。

健康KPIの設置

8個の健康KPIを設定してHP上で発表しています。

健康の土台を構築する 8つの指標

KPI 2020年
実績
2023年
目標
メタボリックシンドローム(メタボ判定+メタボ予備群判定)該当者の割合 12.4% 0%
貧血※1該当者(女性)の割合 14.3% 0%
健全年齢<実年齢※2の割合 48.3% 80%
喫煙者の割合 0.1% 0%
適正飲酒量※3を守っている割合 69.9% 100%
睡眠6.5時間以上の割合 41.7% 50%
30分の運動を週2回以上の実践者の割合 28.9% 50%
1日8000歩および20分の早歩きの実践率 11.4% 50%

※1:貧血とはヘモグロビン値12.0g/dl未満を定義する
※2:健全年齢<実年齢とは体力測定結果(体力年齢・歩行年齢・脳活年齢)を実年齢よりも若い事と定義する
※3:1回量が、男性2合未満、女性1合未満と定義する

喫煙率は目標0%に対し、2020年の実績は0.1%です。長年禁煙への取組みに注力してきました。現在の健康経営推進グループが発足する前から喫煙率をゼロにするプロジェクトがあり、以前から取組みを継続してきたことで現在の成果が出たと思います。今後も維持していきたいです。

各項目の目標値は高めに設定しています。達成できそうな数字を設定して、その目標を達成できたらいいのかというと、そうではありません。例えば、メタボリックシンドロームの目標を5%に設定して、達成できたとしても5%に入っている人は健康ではないということなります。「目指すならゼロ」というトップの考えのもと、社員全員が健康になることをゴールにしています。難しいですが、どうしたら達成することができるかを日々考えています。

定期健康診断のオプション検査の充実、情報提供

定期健康診断のオプション検査について、自分で理解して選択できるような情報提供を行っています。
健診の重要性について全社朝礼で共有したり、イントラネットに投稿するなどして啓発しています。一部の拠点では、保健師による事前相談会を行っています。これまで深く考えずにオプション検査を受けていた人も、重要性に気づく機会になっています。
できる限り主体的に健診を受けて健康増進に活用してほしいので、今後も活動を広げていきたいです。

「ロートグループ健康保険組合」の設立

2022年4月にロートグループ健康保険組合を立ち上げました。社員一人ひとりの健康状態を明確にし、それぞれの年齢や健康状態に応じた具体的な予防策・改善策を実施、スピード感のある健康支援体制を構築し、PDCAサイクルを素早く回し、社員の健康維持に努めます。

取組の中で工夫されたこと、大変だったことを教えてください。

Well-beingでイキイキ生活しようと発信すると、「自分が食べたいものを気持ちよく食べたい」「放っておいてほしい」という声が返ってくることがあります。そういった声に対しては、息抜きも大事だが、将来を考えると生活習慣を正すことが必要ということを伝えていっています。

一つ一つの施策の積み重ねによって、日々「気づき」を感じてもらえているように思います。例えば、睡眠の施策をした際には、「睡眠について考える時間をもらえてよかった」、「知らないことを知れた。気を付けなくてはいけないと気づいた。」といった声が届いています。

どんな効果がありましたか。

社員の健康意識の向上や健康指標の改善は一朝一夕に成し遂げられるものではありませんが、気づきの場の提供により個人が主体的に取り組む行動やオープンなコミュニケーションの輪が広がっています。毎朝、クイズを配信していると、時々フィードバックがあります。その日のクイズの感想を送ってくれたり、「クイズをきっかけに気をつけるようになった」などと声がけしてもらうととても嬉しいです。「健康になった」、「メタボを脱出して気持ちが変わった」という声を聞くと励みになります。

今回、ロートグループの健康保険組合になり、ロート製薬のみならず、グループ会社の社員やご家族を含めて、一貫して健康・Well-beingになれるサポートを開始できました。スタートしたばかりですので効果についてはこれから振りかえりを行っていくところですが、グループ会社の人事担当の方とも一同に議論ができたことや、意識を統一できたことは大きな一歩と感じています。

今後の課題や展望があれば、教えてください。

"Connect for Well-being"を掲げ、Well-beingを推進していくことです。健康は土台作りに過ぎません。よりイキイキとWell-beingで働き続けられるように、健康から範囲を広げて、社内の環境や意識、Connect(コネクト、関係)づくりに力をいれていきます。健康を土台として、活力をもって仕事ができ、社会にも貢献していくことが会社としてのゴールだと思っています。

社員の健康は大事な資本なので、今後も一人ひとりの健康状態を明確にし、それぞれの年齢や健康状態に応じた具体的な予防策・改善策を実施、スピード感のある健康支援体制を構築し、PDCAサイクルを素早く回し、社員の健康維持に努めていきます。社員の声を聴き、社員の気持ちを大切にしながら施策に巻き込んでいきたいと思っています。

社内の健康経営の取組みを社外に広げる取組みも進めています。取引企業とともにウイメンズヘルスラボを開催し、会社や業界の垣根を越えて女性の健康を考え、学び、社会に波及させていく研究会を実施しています。

これから女性の健康支援に取組もうとしている企業に、まず何から取り掛かったらいいか、アドバイスがありますか。

社員に投資をすることを重要視し、人財をどのようにとらえるのかという経営視点からアクションを起こすことが良いのではないかと思います。弊社では病気の予防だけではなく、Well-being経営を推進しています。身体だけではなく心、社会とのつながり、働く意欲といった、全体的なConnect for Well-beingという総合経営ビジョンを社内で浸透させながら、部門を越えて全社的に、「健康人財」を作っていくことを推進しています。

弊社はコミュニケーションを大事にする社風のため、取組みにおいては、楽しく、面白く、全員参加型のウォーキングイベントなどが効果が出やすいです。弊社と同じように、コミュニケーションを大事にする社風の会社であれば、楽しく取り組むところから始めると良いかもしれません。一時だけで終わってしまわないよう、社風に合った取組みを継続することが効果的だと考えます。