特集 企業取組事例

〜女性も男性も健康でイキイキ働く企業の取り組み〜

週休3日制で生活と仕事の両立がしやすく、夜勤の負担も軽減
「いきいき宣言」で心身を健康に

週休3日制を取り入れたことで休日が増え、病気になっても治療しながら仕事と両立がしやすい。夜勤の拘束時間も減少し、身体の負担も軽減。毎日いきいきと生活を送るための宣言「いきいき宣言」によって、職員が笑顔で健康に働く職場へ。

社会福祉法人青谷学園

業種 : 社会福祉事業
本社所在地 : 京都府城陽市中芦原14番地
従業員数 : 全体97名/男性38名/女性59名
  (2022年8月時点)
白樫 忠様、鈴村 由里子様

お話を伺った方

社会福祉法人青谷学園
理事長 白樫 忠 様
事務局長 鈴村 由里子 様

企業の健康支援に対する考え方について

従業員の健康支援に取り組むことになったきっかけを教えてください。

鈴村事務局長:以前は離職率が高く、若い人がすぐにやめてしまっていたので、長く働き続けてもらうために法人としてどのように変化すべきか考えたことがきっかけでした。
健康で生き生きと働き続けてもらうために、どんなブランド力があれば魅力的に感じてもらえるのか模索していた時、健康経営のことを知り、法人全体で取り組むことにしました。
当法人は24時間稼働している障害者支援施設で、十数年前は育休を取得した人が一人もおらず、残業時間も多い環境でした。今の時代にそんな環境ではいけないと、変わっていくために理事長に健康経営に取り組んでみませんか、と投げかけていった経緯があります。
離職率が成果として数値には現れるまでには至っていませんが、勤続年数などは伸びているので、少しずつ働きやすい職場になってきているのではないかと思います。

2018年健康経営優良法人に挑戦し、最初は落選してしまったのですが、二度目の挑戦で中小企業部門に当選してからは、連続して認定をいただいています。続けていくうちに健康経営優良法人の課題もどんどん難しくなっていき、より良く新しいことを実行していかなければ、続けて選んでもらうことができません。達成しても、次々新しい取り組みを行っていきました。

関連して、ワーク・ライフ・バランスの取組も進め、育児休業の取得は当たり前にしました。理事長始め、トップ3人がイクボス宣言をしていて、育児休業の取得を推奨しているので、男性でも取って当たり前の雰囲気が醸成されていっています。

健康支援に対する企業の理念や基本的な考え方を教えてください。

鈴村事務局長:職員が元気で生き生きと働き続けられることは、職員にとっての幸福であり、それがご利用者様に笑顔で接することにつながると考えています。

職員が皆楽しく働き、利用者さんに明るく接するためにも笑顔が大事だと思い、「笑顔宣言」をしました。常に笑顔でありたいという願いもこめて、笑顔センサーという機械を購入し、職員の笑顔度を計っています。

笑顔宣言
「感謝の気持ちをいっぱいに ポジティブな心をもって あふれる笑顔でふれあいます」
2018年11月1日

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女性特有の健康支援について

女性特有の健康支援のために取り組んでいることはなんですか。

子宮頸がん、乳がんの受診勧奨

鈴村事務局長:乳がん検診・子宮頸がん検診の対象者を若年層にまで拡大しました。子宮頸がん検診は、対象を20歳、乳がん検診は、医師の意見を参考に、24歳、30歳、36歳でマンモグラフィーを受けていただいています。検診費用は法人負担にしています。

※注:国の指針による対象年齢: 子宮頸がん検診 20歳以上
乳がん検診 40歳以上

がん教育

鈴村事務局長:衛生委員会が率先して、がん教育を行ってきました。がん対策推進企業アクション推進パートナー企業に登録し、がん教育を積極的に行っています。がん企業アクションに登録した企業は厚生労働省が発行している小冊子「がん検診のススメ」がいただけるので、館内放送で順番に朗読をしています。一方的に誰かが読むだけだと聞き流してしまいがちですが、自分の番が来ると思うと気に留めて聞こうという気になると思い、始めました。がん教育についてのYouTubeを館内放送で流したりもしています。また、乳がん触診体験用のモデルをレンタルして男性も含めた全職員に触って体験してもらっています。

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触診体験の様子

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ピンクリボン月間に乳がんの自己触診の啓発を実施
ピンクリボンをつけた女性職員

がん教育をしていた中で、自分自身に乳がんが判明しました。触ってしこりがあると感じたことが、乳がんが分かったきっかけだったので、女性の職員に実際に体験してもらおうと、抵抗がない方には自分のがんを触ってもらいました。

白樫理事長:定期検診をきちんと受けていた鈴村事務局長が乳がんになってしまったことで、職員はすごくショックを受けていました。 乳がんの脅威が身近に感じられたようで、検診率が一気に上がりました。子宮頸がんも一緒に早いうちから予防しようという空気ができました。

鈴村事務局長:子宮頸がんは男性が原因になることがあるとテレビのニュースで報道されていたので、テレビ局に連絡し、セミナーのブログを社内教育に使う許可をもらいました。男性職員も含めて見てもらい、感想を記入してもらいました。乳がんと子宮頸がんに関しては、様々な手を使って皆さんに学んでいただいています。
今は子宮頸がんワクチンのことを知ってもらい、接種を広めていくことに取り組んでいます。

取り組もうとしたきっかけは何ですか。

鈴村事務局長:がん企業アクションに登録したことです。女性がかかるがんのトップは乳がんです。そこで、乳がん検診と子宮頸がん検診の受診率を上げる取り組みをまず始めました。

取組の中で工夫されたこと、大変だったことを教えてください。

鈴村事務局長:乳がんに罹患したことから、ピンクリボンアドバイザーの資格を取り、自身でもアドバイスできるようにしました。自分自身なってみないとわからなかったお金のことや、保険のこと、治療のこと、心の痛みのことを少しでも職員の皆さんにお伝えできればと思い、衛生委員会の時に少しずつ乳がんについての議題を上げて、発表していきました。当法人は議事録や資料を公表しているので、皆さんがいつでも見ていただけるようにしています。読んでいただいた方からは「勉強になりました」と言っていただけました。

どんな効果がありましたか。

鈴村事務局長:勉強会を受講した職員にアンケートをとっていますが、女性職員からはおおむね「とても勉強になった。」「ありがとうございます。」という意見をいただいています。
男性からも「とても勉強になった」という意見が多いです。これから結婚するパートナーや、子を持つ方もいるので、「この先の人生で関わっていくことがあるので、知っておくことで勉強になりました。」と言っていただきました。

新しく入職してきた方たちにも伝えていくために取組を継続していくことが大事だと思っています。今年度も全職員に向けて、京都府が行っているがん教育の先生に講師として来ていただきます。衛生委員会で意見を徴収したところ、「がんになっても安心して働き続けられる」ことをメインとした講座を受けたいという意見が多かったので、そういったテーマのがん研修を企画しました。

従業員に対する健康支援について

従業員(男女問わず)の健康支援のために取り組んでいることは何ですか。

禁煙対策

鈴村事務局長:健康経営を始めた頃の一番大きな取組は禁煙です。最初のうちは喫煙者がたくさんいたので、禁煙宣言をしました。今は職員に喫煙者は一人もいませんし、煙草を吸う人は採用しません。

腰痛予防

鈴村事務局長:以前、腰痛労災が続いていたため、厚生労働省が主催している腰痛予防の研修に参加し、参加した職員がリーダーとなり、腰痛予防対策チームを立ち上げました。腰痛予防の健康診断を半年に一回必ず受けていただき、腰痛ベルトも配布しています。足元もしっかり踏み込める靴に変えました。腰を落とす作業に入る場合は、腰痛予防体操をしてから支援に向かうようにしています。

白樫理事長:また、「ノーリフティング宣言」を発出し、スライディングボードや電動の移乗リフトなど介護支援機器を導入しています。最近では移乗ロボットや着ることによって負荷が減るパワーアシストスーツなども導入しました。 様々な方面から腰痛予防の対策を考えた結果、ここ数年腰痛労災はありません。

ノーリフティング宣言
「持ち上げない! 抱き上げない! 引きずらない! 中腰にならない!」
2018年3月16日

腰痛予防体操の様子
腰痛予防体操の様子

パワーアシストスーツ2
パワーアシストスーツ

スライディングリフト
スライディングリフト
立ち上がりに介助が必要な方が椅子やベッドへ移乗する際に使う福祉用具。立ち上がりの動作を安全に無理なく行ってもらうことができ、介助する支援員の負担を減らすことができる。

移乗サポートロボット
移乗サポートロボット
単独での立位保持が困難な方に対して使用する機器。座ったまま脇の下を支え、立位を維持しながら移乗することが可能となり、移乗時の腰の負担を軽減することができる。

メンタルヘルス研修

鈴村事務局長:Eラーニングは4つの会社と契約し、職員に自分で選択して受けていただく機会を提供しています。メンタルが弱っている様子の職員がいたら、管理者から「研修があるよ」と案内をしてもらっています。
年に1回、集合形式での勉強会も行っています。メンタルヘルスの講師をお招きし、アンガーマネジメントや、自分のモチベーションを上げる方法、辛さを上手に逃がす方法などについてお話しいただきます。皆さんに心が軽くなっていただきたいと思っています。

がん休暇、骨髄ドナー休暇

鈴村事務局長:今のがん治療はほとんどが通院です。コンスタントに治療が続き、出勤できないわけではなくても、飛び飛びで1年半くらい治療が継続するので、そういった状況に対応できるようにがん特別休暇を作りました。年15日まで取得できます。半日でも時間単位でも使えるようにしています。私も放射線治療を行っていた時に少しずつ時間休を取りながら通うことができました。何日もお休みを頂きましたが、給料が減額することは一度もありませんでした。

白樫理事長:最近では、骨髄ドナー休暇も設けました。ドナーになったら年10日まで休むことができます。

鈴村事務局長:病気休暇など長期連続で休む場合は、傷病手当金をもらっていただけるように手続の案内は必ずしています。また、連続で休まなければいけない傷病は、有給休暇がなくなっても30日間は賞与が減らないように就業規則を変更し、できるだけ本人のデメリットがないようにしています。

休みを取りやすい職場環境の整備

鈴村事務局長:がん休暇に加え、当法人では週休3日制を2017年から導入しています。お休みが多いので、(私自身は)休みの日に治療をあてられました。
2016年に九州で導入した例を新聞で見て、24時間制の施設にちょうどいいのではないかと思ったことがきっかけです。週5日1日8時間の勤務だと休憩を含め3交代制でまわさないといけませんが、週4日10時間の勤務であれば2交代制が可能となります。24時間の社会福祉施設では、8時間勤務で夜勤があると2日分の16時間、休憩が入ると約20時間の拘束がありますが、10時間勤務だと休憩が入っても約15時間の拘束で、少し夜勤が短くなります。

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白樫理事長:週休3日に慣れた職員は「夜勤が楽になったし、休みも多いので、8時間勤務には戻りたくない」と言っています。
8時間勤務では一人の職員が朝食か夕食どちらかの介助しかできませんが、10時間勤務にすることによって朝食から夕食まで介助できるので、ご利用者様に寄り添える職員が増えました。ご利用者様にとってもメリットが大きいです。

鈴村事務局長:また、年次有給休暇が20日間付与される場合、10時間勤務だと200時間、8時間勤務だと160時間なので、休みが40時間分も増え、職員にもメリットがあります。

白樫理事長:10時間勤務にするにあたって、その代わりに残業はしないということで統一しました。最初はなかなか浸透しませんでしたが、管理職が率先して実行することで、今では一月の1人あたりの平均残業時間はたったの15分です。

鈴村事務局長:理事長自身が退勤時間ぴったりにタイムカードを押しています。他の職場から転職してきた職員の方からは「こんなに時間管理がきっちりしていて、働きやすいところはない」と言っていただけました。

取り組もうとしたきっかけは何ですか。

鈴村事務局長:新しい取組を始めるきっかけは、衛生委員会や管理者から提案することもあれば、職員からのアイデアを取り入れることもあります。笑顔センサーも、職員へのアンケートから導入しました。ランニングマシーンやフットフィット、マッサージチェアやスポーツクラブにあるような体組成計なども職員からの希望を受けて導入しました。

白樫理事長:体組成計はイベント時などに地域の方にも使っていただこうと思っています。健康経営に地域も巻き込んでいきたいです。

どんな効果がありましたか。

鈴村事務局長:まず男性職員の雰囲気が良くなりました。お互い助け合っていて、メンタル面も良くなっているように感じます。

現在健康アプリを導入しており、自身のスマホから歩数の計測や、食事内容、健康診断の結果の入力などができ、健康管理に役立てています。衛生委員会を通じて、アプリを活用してもっと健康になるためにプレゼンしてもらえないかと職員に募集したところ、多くの男性の職員が、「健康アプリを使って、健康について考えるようになってよかった」、「学園が健康経営を中心に一生懸命やってくれているので、それに応えて健康で頑張っていきたい」ということを書いて応募してくれました。チームとしてまとまってきているので、男性の離職率は減っているように思います。

男性が安定してきていることが女性にいい影響を与え、女性職員も働きやすい職場になればいいと思っています。

女性はお母さん職員も多いのですが、家に帰っても子育て、家事に追われ、心に余裕がないこともあると思います。私自身、子育て中に一度倒れてしまったことがあり、無理をしすぎてはいけないことを知っています。男性も女性も平等に子育ても仕事もできる社会になるためには男性も休みやすくしないといけません。当法人では子の看護休暇の内、一日は有給で、男性にも取得するように積極的に案内をしています。そのためイクメンの男性が多いです。少しでも理想の会社になっていければと思っています。

また、職員からの提案として始めたサンクスカードのような褒め褒めの輪という取組があります。褒め褒めの輪とは、毎月職員を決めて、色紙にその職員を褒めることを皆で書いて渡す取組です。そういうことを自主的に各施設でやってくれています。これがきっかけとなり、お互いを褒め合い、感謝し合うようになりました。中にはメンタルが弱っている職員の方もいるかもしれませんが、法人としてお互いに盛り上げていきたいです。職員もいろいろ考えています。健康経営の取組として良くしていこうと思って始めてきたことが少しずつ様々なところに波及していっていると感じます。

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今後の課題や展望があれば、教えてください。

鈴村事務局長:世代によって必要とされる支援は違います。若い子育て世代については、産休育休や、子供の病気や学校行事で休みやすい環境、高齢になると、がんや生活習慣病、更年期障害の治療と仕事との両立ができる環境など、それぞれ世代に合わせた職場環境整備が求められます。

これからは不妊治療への対応を検討していくのと同時に、更年期障害についても一緒に考えていきたいです。若い子育て世代の制度ばかり良くなっていく傾向がありますが、できれば、若い人のための不妊治療制度と上の世代のための制度を両方やっていきたいと思っています。どの世代にも平等に何かあった時に健康を維持していきながら働いていける環境づくりに取り組んでいきたいです。

白樫理事長:週休3日制で皆定時に帰る、こういう働き方もできるということをもっと広めていきたいと思っています。最近では、厚生労働省の働き方改革のシンポジウムに登壇したのですが、そういった機会をいただけたら、アピールしていきたいです。

これから女性の健康支援に取組もうとしている企業に、まず何から始めたらいいか、アドバイスがありますか。

白樫理事長:当法人でははがん検診などの充実、禁煙の取組、健康アプリの導入などから始めました。

一番のおすすめは「いきいき宣言」です。「いきいき宣言」とは、毎日生き生きと仕事をし、生活を送るために何をするかの宣言を全職員に書いてもらい、掲示板に貼って公表する取組です。この「いきいき宣言」が京都府の健康づくりの取組で評価され、当法人が最優秀賞に選ばれました。早起きや、しっかり朝食を取る、ダイエットを頑張る、一か月笑顔で頑張るなど宣言は様々です。宣言を公表することで、実行しよう、やり遂げようという気持ちが湧いてくるので、成功率がものすごく高いです。今はSDGsの取組も併せて公表しています。私の場合は子ども食堂にお肉を送ると書いて実行しました。
職員からは「いきいき明るく過ごせました」といった意見があり、大変好評なので、6年程続けています

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