専門家コラム

女性の健康に関する思い込み

診察室で、患者さんから、お話をお聞きしているときにハッとさせられることがあります。そのような内容を、少し取り上げてみます。

1.「生理は自然なこと。生理痛で仕事を休むのは、痛みに弱いから。我慢が足りない!やる気がないせいだ!」

「え?そんなことはない!」と思った方は多いと思います。ただ、「生理痛で仕事を休むのは、痛みに弱いから。我慢が足りない!やる気がないに違いない」と思う方は、結構多いようです。患者さんから、「男性は、月経の経験がないから、生理痛の辛さを知らない」ということをたびたび聞きます。ただ、生理痛の辛さを経験していない女性の上司の下で働く女性も、生理痛の辛さを上司に申告しにくい、と言っています。

1人の人が経験できることは限られているので、自分の感覚にも、上司や同僚、あるいは部下の感覚にも限界があることを認識し、「自分の想像のおよばないことがある」ことをわきまえて、対処するようにしたいものです。

なお、仕事を休まなければならないほどひどい生理痛の原因には、子宮内膜症など治療が必要な病気もあります。生理痛の治療はさまざまな方法がありますので、婦人科の診察をお受けになることをお勧めします。

2.「イライラしやすい女性は、本人の性格的なものであり、薬で治せるものではない」

イライラする女性に接した時、「自分の対応が不適切でイライラさせているのだろうか?」「本人の性格?」と考えてしまうことがあるのではないでしょうか?

実際には、月経周期に伴うもの(月経前症候群)だったり、更年期の時期特有の精神的な不安定さによるものである場合もあります。

もし、イライラする時期と、そうでない時期を繰り返すようであれば、月経前症候群によるもの、と推測できますし、以前は全くイライラすることのなかった女性が、急にイライラする頻度が増える、といったことがあれば、更年期の影響である可能性もあります。

月経前症候群や更年期障害であれば、治療の方法はありますので、イライラするご本人に、うまく薬を使って頂きたいものです。

ただ、イライラの原因は、一時的な寝不足だったり、パートナーの無理解によるものだったり、本人の了解し難い仕事量だったりするかもしれません。あるいは、単純に、イライラしやすい性格的な要因があるのかもしれません。慎重に判断しないといけませんね。

なお、イライラしている人に、イライラの原因を尋ねる時には、更にヒートアップしてしまうことがないように、言葉のかけ方は工夫が必要ですね。

3.「更年期の症状は、時期が来れば治まるので、治療を受ける必要はない」

そう、そう、更年期は、自然な変化なんだから、医者の診察など受けなくていい」とお思いになった方、おられるでしょうか?

確かに、50歳前後で生理の周期が不順になった、というだけで、診察を受けることは必要ありません。ただ、倦怠感がひどい、動悸がひどい、ほてりで困る、汗がひどくて仕事にも差し支える、気分の落ち込みがひどく、仕事に行かれない、といったことがあれば、早めにクリニック等で相談して下さい。

更年期障害だろう、と思っていたら、甲状腺の病気だった、とか、うつ病だった、という方は多くおられます。甲状腺の病気であれば、薬の治療でよくなりますし、うつ病であれば、専門の医師による適切な治療を早めに始めることにより、重症化を防ぐことが可能です。

また、内科や心療内科の病気がなく、更年期障害である、という場合も、ホルモン補充療法や漢方薬等で、治療が可能です。治療が必要かどうか、分からない、という方は、治療が必要かどうかの相談も含め、クリニック等を受診なさるといいでしょう。

星野寛美先生

著者:星野寛美先生
産婦人科医師
関東労災病院 働く女性専門外来担当