
株式会社リンクス人事コンサルティング 特定社会保険労務士
菌田 直子
働きやすさを生み出す「信頼貯金」
今や、女性の育休取得率は8割を超えている。
労務管理の現場で、結婚や出産が契機の退職は少数であることを肌で感じる。その一方で、産休・育休からスムーズに職場復帰できるかというと、どうも一筋縄にいかない。産休育休制度や短時間勤務をはじめ国の制度も年々充実してきているが、それだけでは越えられない壁がある。
産休育休からの復帰時は、子供の体調も不安定で突発的な欠勤や早退が起こりがちになる。ブランクから復帰し想定通りに物事が進まない中、周りからもなかなか理解されず、退職に至るケースも多い。
仕事も育児も家庭もごった返した状態で、全てのタスクを自分一人で抱え込んでもどうにもならない。周囲のフォローなくしては乗り切れないのがこの時期だ。
ここを上手く乗り切るには、出産前にどれだけ「信頼貯金」を貯めてあるかが影響してくる。日頃からきちんと仕事をこなし、周りの人を助けフォローもしっかりする。いざというとき周りが「あの人のためならフォローしよう!」という「信頼」を貯めるのが「信頼貯金」だ。
「約束を守る」「仕事をやり遂げる」「真摯に対応する」・・・小さなことの積み重ねで誰もがコツコツ貯めることができるが、宝くじのように一攫千金で増やすことはできない。いつも期待を裏切っていると、どんどん貯金は目減りしていく。
貯めておいた貯金はいざという時に引き出す。出産育児は、周囲のフォローを必要とする状態だ。この時に引き出せる信頼貯金をどれだけ貯められるか、それまでの行動にかかっている。
この信頼貯金、貯まりにくい職場、貯まりやすい職場がある。
「我も、我も」と競うように自分の権利を主張する職場では、信頼貯金は貯まりにくい。目の前の権利は行使できるが、長い目でみると立ち行かなくなる時期もあるだろう。
「おかげ様」の精神で周りをフォローし合う職場は全体で貯金が貯まりやすい。特定の人に偏った負荷ではなく皆が周りを気遣いおもいやると、関係性が良くなり、仕事もプライベートもスムーズに進むようになる。信頼貯金が貯まりやすく引き出しやすい環境は、長く働き続けやすい職場にもつながる。
実際、社内の制度を整備するのは簡単だが、運用する上での肝は、風土や意識の醸成だったりする。それには、一人一人が「信頼」へのスモールステップを重ねていくことが、一番の近道なのかもしれない。