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情報サービス業で働くみなさまへ

1.女性社員の妊娠・出産期における母性健康管理

育児だけでなく妊娠・出産にも夫の家事参加が重要
ただし、夫の育児休業は「日数」が肝心

小畑泰子 委員
産業医 合同会社 ミーシャ 代表社員

今回特徴的だったのは、夫の家事・育児の参加と早産との関連についてです。これまですべて身体的負担の大きい業種を対象としてきましたが、今回の情報サービス業では、身体的負担でなく、労働時間や精神的な負担が問題となりました。
また、夫が家事をするほど早産率が低くなるという傾向がみられましたが、育児だけでなく妊娠・出産にも夫の家事参加が関係することに着目した点が大変興味深いです。
今までもいろいろな業種別に調査を行って、業種間を比較したり差をみたりしてきたわけですが、職場の理解や協力はもちろんのこと、家族の理解・協力がきちんとできていないと、女性が妊娠・出産し、育児をしながら働き続けることは難しくなることが明らかになったのだと思います。
男性の育児休業取得率の話もよく出てきますが、実態としては休んだのは3日だけとか一週間くらいで、半年、一年とられる方は実際どれくらいいるのか疑問です。とはいえ、全く取らないよりは、3日でも取る方が一昔前よりは進歩だと思います。
また、社会全体の課題として、過重労働やメンタル不調などがワークライフバランスに影響してきているので、母性健康管理に関しても、人間関係との関連などうまく調査していけたらいいと思います。

男女別育児休業取得率(企業調査)

●尾形委員

確かに、男性の育児休業は一週間以内の短期間というところが多いですが、私もそれが何も意味がないとは思いません。短期間でも育児休業を経験する中で、妻が家事と育児を同時にする大変さに気づくと、その後も家事育児に参加するようになりますから。その気づきがないと、育児休業中の妻に対して家で休めていいなあというだけで終わってしまいます。

●中林座長

まずは、妻が家事育児をしていることの大変さを夫が理解することが大切だということでしょうか。
短期間での育児休業というのは次のステップのために意味はあるけれども、さらにそれを進めていくことが望ましい、そんな風にしたほうが日本の実情には合うように思います。

労働時間の問題は、「長さ」だけでなく、
労働の「質」も重要な要素

池田心豪 委員
独立行政法人労働政策研究・研修機構 企業と雇用部門主任研究員

母性健康管理の対応としては、業務負荷から妊産婦を保護することと、そのために労働時間管理を意識的に行うことが基本です。情報サービス業の場合は、妊娠に至るまでのハードルが結構あり、妊娠に至らずに辞める、ないしは子供を産まない選択をするケースも少なくありません。
情報サービス業は、全体的に長時間労働の傾向があり、データを見てもそれほど適正な労働時間管理が浸透しているとは言い難い状況です。働いている人があまり残業免除の申請をしてないのが実態で、恐らく申請しづらい側面もあるのだと思われます。
調査では、「労働時間の短縮変更の希望」が高いことが確認されましたが、中でも「負担の軽い仕事への変更」の希望が高く、特に「精神的な負担が軽い仕事への変更」が必要だと思う割合とそれが実現できていた割合とのギャップが大きいことがわかりました。
休憩や通勤緩和などの労働時間管理の問題に加えて、面談やストレスチェックを通じて、通常通りフルタイム勤務ができていますとか、多少の残業は大丈夫ですという人も本当に大丈夫なのか、注意深く見ていかなければなりません。

それから、労働時間問題を考える上での最近の考え方として、長くないけれども負荷が高いといったようなことを労働時間の「質」と言っています。今までは、労働時間が長いことが問題視され、長いから短くしましょう、休みましょう、となっていました。ですが、たとえ1時間働いてもその1時間が健康に対してあまり影響のない1時間と影響度が大きい1時間では、労働時間の「質」に違いがあるのです。
単純に「休めばいい」となかなか換言できない健康問題があるということも踏まえ、「質」の面からも労働時間について考えていく必要があると思っています。

●中林座長

職場でストレスチェックが義務付けられるようになりました。それでチェックすると高い値が出てくる人がいます。労働時間ではなくて人事関係の問題とか色々な不満とか、そういうものが多い人はストレスの値も高く出てくるようですね。
情報サービス業の場合は労働時間の長さだけでなく、特に労働の「質」もみていく必要があることがわかりました。
ストレスチェックや面談で本人の体調や仕事で無理をしていないか、コミュニケーションをしっかりとり、健康状態を把握した上で一人ひとりに応じた適切な対応をすることが大事ですね。

女性にやさしい職場づくりは、家族、企業とつながっている
男女を問わず、誰にとってもやさしい職場が求められている

尾形和昭 委員
NPO法人ファザーリング・ジャパン IT部会リーダー 一般社団法人 情報サービス産業協会会員

今回、女性労働者の妊娠・出産に関しても男性の家事・育児参加が調査項目に入り、非常にフォーカスが広がったと思います。
夫の家事・育児の参加の影響として、有病率が下がったり、早産率が下がったりという調査結果が出ました。妻が妊娠中から男性が家事・育児に参加することで、良いモデルが増えることを示せたのは大変有意義なことです。一方で、夫の家事・育児の時間がゼロに近しい人も一定の割合で存在するということは無視できないと感じます。
また、「妊娠・出産に関して働き続けるために必要なこと」の設問で、「精神的な負担の軽い仕事への変更」への希望は多いのに実現できていない、ということがわかりました。女性労働者の声を受け止める「相談窓口」が必要とされていると感じます。
現在、母性健康管理の制度が拡充されつつある中で、上司から妊産婦に対する働きかけがうまくいっている企業とそうでない企業の違いは、トップのコミットがされているかどうか。上司が部下に対して「1対多」ではなく、一人一人に応じたケアがしっかりできているか、相談体制を含め企業の体制が機能しているかチェックすることが肝心です。
これからは、妊娠中・出産後の人はもちろん、怪我をしている人も、病気を持っている人も、誰にとっても働きやすい職場が求められていく時代だと思います。

妊娠・出産を経験しても仕事を辞めずに働き続けていくために必要だと思うこととその実現率

●中林座長

今日はありがとうございました。
先生方のそれぞれのお立場から意義のあるコメントがいただけたと思います。

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