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情報サービス業で働くみなさまへ

1.女性社員の妊娠・出産期における母性健康管理

残業免除してもらいたくてもできないことがストレスに
妊娠中は残業の免除申請をしやすくし労働時間を適切に保つ

百枝幹雄 委員
聖路加国際病院 副院長 女性総合診療部 部長

私は産婦人科医の立場から、今回は早産にポイントを絞り、医学的な観点からお話しします。 情報サービス業について現場の詳しい状況まではわからないのですが、クライアントの事もあり、なかなか途中で仕事をやめられない、長時間働かなければならない業種なのではないかと思い、時間との関係に焦点を当てました。
実際、妊娠していない時の労働時間は7割近くが8時間を超えていて、妊娠中でも57.1%は時間短縮ができないというのはやはり労働時間が長いと言えるのではないかということと、残業を、「申請・請求しなかったため免除してもらえなかった」という人が半分以上になっていたこと等から、自分からは残業申請しにくい業務内容なのかもしれないと推察をいたしました。
そこで、「残業を免除された人」と「されなかった人」の早産率を比較すると、「免除されなかった人」の方が37週未満の早産率が高い傾向があり、特に、「請求をしたけれども免除されなかった人」については、34週未満の早産率が極めて高い傾向がありました。つまり、残業を免除してもらいたくてもそれが叶えられない場合、かなりのストレスを感じる可能性があると言えます。ストレスに関しては、感じた人の方が感じなかった人よりも早産率が高い傾向にあることがこれまでの調査からわかっています。
これらのことを総合すると、この業種においては、労働時間の管理が非常に重要であり、妊娠中は残業の免除申請をしやすくするなど、労働時間を適切な状態に保つための周囲のサポートが必要であるという考察をいたしました。

通常時と妊娠中の1日の労働時間(女性労働者調査)
妊娠中残業と申請の免除(女性労働者調査)

●中林座長

これまで、委員会では、身体的な負荷がかなり大きい業務がある業種を調査してきました。今回の情報サービス業は、身体的な負荷は少ない業種で、制度面でも運用面でも他業種より進んでいて、働く環境としては非常にいい状況にあると言えますが、女性労働者が大変仕事熱心だったり、他の方に迷惑がかかるから妊娠中でも残業していたり、その結果、早産となってしまうことも見受けられました。
整備された環境で、身体的に負担の少ない労働であっても、労働時間が長いと妊娠には悪い影響がありそうだということが分かったと思います。また、残業を免除してもらいたいときにできないというのもそうですが、休憩についても、休みたい時に休めなければ同じことが言えると思います。 企業としては、残業を免除してほしい、休みたいという申請があればできる限り対応する、それから申請がなくても、少し時間が長かったり、負荷が大きくなったりと思われる人には、声をかけたり、労働時間や休憩の適切な調整を行うことが重要だと、今回の調査でわかったと思います。

夫の家事・育児が増えれば、
妻の妊娠中の有病率減少だけでなく早産防止にも効果あり

中井章人 委員
日本医科大学多摩永山病院 副院長 女性診療科・産科 部長

事業所調査をみると、女性労働者の妊娠後、多くの企業で労働時間が短縮され、体制整備が進んでいるように思われますが、労働者調査を見ると、妊娠を機に6割近くもの女性が退職していて、残った人達の中では、妊娠した後でも労働時間はあまり短縮されていませんでした。この偏りは十分認識しておく必要があると思います。
今回の調査結果で非常に興味深かったのは、過去の調査でもばらつきがみられたところではありますが、夫の家事・育児の時間が、妻が妊娠中に病気であると診断されたかどうかの「有病率」との間に関連性があるとデータ上認められたことです。
夫の家事・育児時間が少ない場合は有病率が13.8%だったのに対して、夫が家事・育児時間が長い場合は10.8%にとどまっていました。今回の調査結果から、有病率に関してはある一定の指標になると言えるでしょう。
早産に関しては、夫の家事・育児時間と早産率との関係が、負の相関率になっていて、夫の家事・育児時間が長ければ早産率が低く、短い場合は早産率が高くなっているという結果でした。ただし、有病率は業態や業種とは関連がないようです。また、以前はストレスが多いと早産に関係があるという業種もありましたが、今回その点については関係が薄かったようです。 夫の家事・育児の参加がそれほどダイレクトに有病率や早産率に影響するとすれば、今までなかった視点ですので、今後の調査もみていきたいところです。

夫の1日の家事・育児協力時間と病気と診断された割合と症状出現頻度)

●中林座長

通信調査で、妊娠・出産しても仕事を辞めずに働き続けるために必要だと思っていても実現できていないことを女性労働者調査で聞くと、「相談窓口(相手)」と回答した割合が多くみられました。「夫を相談相手として精神的に頼ることができること」が大切なのかもしれません。
家事・育児時間が長いということは、心理的にも影響があるのではと思えてきます。情報サービス業の仕事は単に肉体的なものよりは精神的なストレスが多い仕事です。妻が家に帰って来たら、夫が精神的にストレスから解放してくれる、そういう夫婦がうまくいくのでしょうね。そうした精神的な部分がやはり大切だと思いました。

身体的負担が感じにくい業務だからこそ、
現場まかせ本人まかせは厳禁!周囲が意識して配慮を

長井聡里 委員
産業医 すてっぷ産業医事務所 所長

IT業界の従業員には、いわゆるVDT作業者、長時間労働の残業の面談をする対象者というイメージが強く、そこではあまり性差を意識しませんが、面談対象者に妊婦さんが来られたときに「なぜそこまで無理するのだろうか」という印象がずっとありました。それがこの調査結果からも端々に出てきたように思います。IT業界は、労働衛生上、性差に関する考慮が比較的必要ないと思われてきた業種なのです。
通信調査では、母性健康管理の措置実施についての設問で「申し出があれば実施する」とあるのですが、「そもそも申し出ない」という裏の実態があることが、裁量労働の最たるものだと思います。ヒアリング調査でも裁量労働制のため休憩時間という概念を持たないという意見があり、印象的でした。
事業所調査は概ね大企業正社員の回答ですので、制度も設備も整っている、という結果になることは否めませんが、それでもやはり、34週未満の早産の方の休憩場所が確保されていなかったり休憩回数が少なかったりという結果が出ています。女性労働者の申し出だけに頼ってはいけませんよと、あえて言っていかなければいけないところです。
人事労務も申し出がなければ問題ないだろうと現場に任せきりになりがちです。ただその現場は多くの場合、直属上司はその場にいないわけで、同僚らがどの状況でフォローすべきかわかっていてチームワークでカバーできる状態なら良いのですが、なかなか難しいと思います。ヒアリングの結果からも、「計画的に仕事をして、何かあった時には引継ぎできるよう準備している」という回答が多く、本人次第で、周囲もギリギリまで頼ってしまいがちです。身体的負担の大きい職業と違って、本人たちも自覚する疲労などは感じにくく、座ってさえいればお腹も楽だから大丈夫となりがちです。我々は産業医として、本人の自覚に任せず、妊婦健診での胎児の発育状態に思いを馳せ、「お腹をいたわって休憩取りなさいね、早く帰って睡眠第一ですよ」など、あえてひと声かけることを心がけたいものです。

駐在先で休憩場所がなくても我慢してしまいがち

休憩場所については、自社で作業をする場合と異なり、駐在先では遠慮するだろうことは十分想像できます。駐在先の産業医としても、「駐在の方たちにも使ってもらいやすい休憩場所ですか」と巡視の際に言って回っているかというと、少し言葉が足りなかったかもと反省するところです。妊婦さんが我慢してしまうのを「そうではないですよ、世の中から祝福され歓迎され保護されるべき存在なのですよ」と訴えていきたいと思います。
男性の家事・育児の参加については、今回、初めて調査項目として取り上げてみて、家事労働がカバーされると、残業が多かろうが少なかろうが、女性にとっていい傾向がしっかり結果に出てくることを実感できました。
若い世代の男性社員たちは家事・育児に関心も高く行動していますよと企業側がアピールしていくことも、成長産業であるIT業界の人材確保には必要だろうと強く思います。

妊娠中の休憩場所の有無(女性労働者調査)

●中林座長

情報サービス業で働く女性は、主体的に仕事に取り組む方々が多いですから、身体の不調を訴えるより意欲の方が前に出てくる。指示されなくても自分からかなりの仕事を計画的にこなしてしまう。そういう人にストレスが溜まってくることがあるのでしょう。
情報サービス業で働く人々にみられる「職人意識」や、「我慢強い」ことが妊娠継続に問題になる場合もある。産業医の立場から、そういうものを見つけて、本人からの申し出だけでなく、周囲がそれを気にかける視点が必要だということですね。
それから、この業界は若い世代の社員が多いだけに、男女共同参加を進め、ワークライフバランスを保ってほしいと思います。IT業界が先陣を切って推進してほしいですね。

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