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専門家からのアドバイス 働く女性の身体と心を考える委員会より

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財団法人 放射線影響研究所 理事長(元・産業医科大学 学長) 大久保利晃 介護施設における良好な女性労働、母性保護の労働環境の達成に向けて

今回の調査は(社)全国社会福祉協議会 全国青年経営者会の会員機関を対象に行ったもので、全国の介護施設の中でも介護に対する取り組みの姿勢が積極的なところを対象にした。介護事業は、保険制度発足後未だ日が浅く、いろいろな問題点を抱えており、今回調査対象となったのは母性保護の点でも特に条件の良い施設であることを念頭に置いて調査結果を評価しなければならない。たとえば、介護専門職の配置状況を見ても、専門職1人当たりの利用者数は2.0前後と、法定基準の3を十分上回る実態であった。
これら機関の経営者は、母性保護のみならず女性労働者の労働環境の改善、労働負荷の軽減に取り組むことは、介護職員の平均勤続年数の延長に繋がり、結果的に介護の質を向上させると考えている。したがって、介護職員の専門性を高めるために、キャリアパスまで考慮している長期的視野に立つ経営者もあった。しかし、開設後の年数が浅い施設では、介護職員の退職率が高く、専門職が定着して介護の質を一定以上に保つためにはなお一定期間が必要だと推定された。
「作業の制限」、「軽易業務への転換」、「深夜業の制限」、「育児・介護休業法」など、母性保護や両立支援制度の導入状況の調査結果では、予想外に規則を制定していない施設が多かった。しかし、これは法整備以前から常態としてすでにこのような措置が行われていたためであった。同じことは制度の周知面などに於いても見られ、特に管理職研修などが行われなくとも、現場での対応から自然に制度の理解が進むことが判明した。
今後必要な取り組みとしては、地域における他施設との連携強化を上げている。たとえば、他施設と連携して職員研修を行う、夜間勤務者対象の夜間保育施設を協働で開設する案もあった。現在でも、老人福祉施設で構成されている老人福祉協議会や福祉施設の経営協議会などを通じ、母性健康管理や両立支援などの情報交換を行い、事業所内託児所などの取り組みや先進事例などを知る機会として位置付けられている。
一方、介護労働者本人への聞き取りでは、ヒアリング対象者全員が介護の仕事に魅力やりがいを感じており、妊娠が判明した後も仕事を続けたいと思ったと答えている。この中には、経済的な面からも続けたいと思った人も含まれていた。
仕事を続ける上で不安に思ったこととしては、お腹への負担や流産の不安などの「体調に関すること」と、「同僚や家族の負担が増すこと」、「復帰後の子どもの預け先」だった。これらの不安を払しょくできた要因としては、妊娠、出産、子育てと仕事の両立を経験している同僚・先輩・上司の存在や、家族の理解・協力だった。
ほとんどの人が、妊娠が分かってからすぐに、直属の上司(主任、ユニットリーダー等)に口頭で報告している。中には、同僚も妊娠していたという特殊な事情から、職場へ負担をかけることに気兼ねして、安定期に入ってから報告したケースもあった。妊娠が分かってからすぐに報告した理由としては、自分の体を守るための作業軽減措置を受けるためや、リーダーなどの役職者が職場への負担や迷惑を考慮した事例である。いずれも、報告後職場からは「おめでとう」、「よかったね」と祝福を受けたケースが多い。
育児休業中に施設を訪問し、復帰後の働き方などについて相談したり、他の利用者の状況を確認している人が多かった。復帰後に日勤のみでも働けるように、育児休業中にケアマネージャーの資格を取得した人もいる。保育環境や家庭環境を踏まえた勤務時間や担当者数の調整、託児所の整備などの職場からのサポートに対し、ありがたいと感じていた。
労働環境に問題点が少なくないと言われる福祉施設に於いても、労使の理解があるレベルを越えると、他業種にも見られない良好な女性労働、母性保護の労働環境が達成できることが今回の調査で分かった。今後、さらに母性保護の重要性を周知することにより、一層の改善が可能になると考えられる。

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