特集 企業取組事例

〜女性も男性も健康でイキイキ働く企業の取り組み〜

ボトムアップでできることから健康施策を積み重ね、
従業員の自発的な健康増進の取り組みを促す

担当者2人から始めた健康増進活動は、できることからコツコツと活動を続け、全社的な取り組みへ。同業他社の従業員も研修参加や動画コンテンツの視聴ができるようにするなど、効果は社外へも波及。
各拠点のベストプラクティス事例を社内報で展開し、自発的に案を出すことで、従業員同士が影響を与え合っている。

JCOM 株式会社

業種 : 放送通信業
本社所在地 : 東京都千代田区丸の内1-8-1
  丸の内トラストタワーN館
従業員数 : 全体12,218名/男性8,243名/女性3,975名
  (2021年度末)
: 全体12,218名/男性8,243名/
  女性3,975名(2021年度末)
下川 照代 様

お話を伺った方

JCOM 株式会社
人事本部労務厚生部マネージャー
下川 照代 様

企業の健康支援に対する考え方について

従業員の健康支援に取り組むことになったきっかけを教えてください。

2018年から健診データを徹底分析して、全拠点の全従業員の健康状態を把握したことがきっかけです。産業医の先生にも協力していただきました。
それまでは紙ベースで健康診断の結果を集めていたのですが、全社の健康診断結果を電子データ化する仕組みを整え、労務厚生部と産業医が社員の健診結果をデータでみられるようになりました。弊社専任産業医から指標をもらい、弊社データと以下の世間一般データで、性年代別にエクセルで比較分析しました。
参考:フォーマット見本(PDF)

  • 生活習慣_世間水準DATA_国民栄養健康調
  • 人間ドック学会
  • 健康保険組合連合会

生活習慣(運動習慣・喫煙状況)は別途アンケートを年に1回取って分析しています。
それまでの紙ベースでは集計が各拠点任せでしたが、データ化により傾向を分析ができる土壌ができました。

健康支援に対する企業の理念や基本的な考え方を教えてください。

企業理念の<経営方針III>従業員と家族の幸福「互いに尊敬しあう企業風土と、各人の能力を発揮できる職場環境を創造し、従業員と家族の物心の幸福を実現する」に基づき、「健康経営宣言」を掲げています。
従業員の心身の健康が、個々人の生活の基盤であるとともに、会社の大切な財産、経営の基盤であることを明示して健康経営を推進しています。

ケーブルテレビは地域密着の事業です。従業員だけでなく、家族、地域を健康で幸福にしていくことを目指しています。

女性特有の健康支援について

女性特有の健康支援のために取り組んでいることはなんですか。

「健康セミナー」の開催

「健康セミナー」はこれまで3回行っています。コロナ禍で雑談の機会が減り、女性のストレス度合が高まっているので、今年(2022年)の3月に産婦人科の医師を講師に迎え、3回目の研修を実施しました。育児時間、産前産後休業などを取っている従業員もいるので、録画して1年間は見られるようにしています。

従業員には非常に好評でした。受講者に研修の「他者への推奨度」を聞いて評価をしていますが、非常に高い評価をいただきました。従業員からは「男性の上司にも是非聞いてほしい」、「産婦人科は子どもを生む時だけではなく、日々の体調管理のために行ってもいいんだと意識が変わった」などという意見がありました。

研修の中では女性特有の健康課題だけでなく男性更年期についても取り上げ、多岐にわたって話していただいた点も評価されました。まだまだ先のことだと思っている30代の従業員にも、更年期について認識してもらえました。

一昨年はストレスチェックで30代の女性の結果が最も悪かったのですが、今年は改善しました。女性は一人で抱え込みがちなので、自分一人じゃないというメッセージは研修を通じて伝えられたかと思います。アーカイブをまだ見ていない従業員には是非見てもらいたいです。

社内外への情報配信

グループ会社の女性チャンネル♪LaLa TVと連携し、更年期に焦点をあてたCS放送番組を従業員に限定公開しました。オフィシャルYouTubeで展開し、自社の従業員だけでなく、同じケーブルテレビ業界の従業員の方にも見てもらいました。昨年度は他社の方にも研修に参加していただけるよう調整をしました。

九州のケーブルテレビ連盟に女性活躍のワーキンググループがあり、その中で番組を紹介したり、参加を呼びかけています。ケーブル業界だとまだまだ女性の割合が少ないので、女性従業員やその上司の方にお声がけするようにしています。

※YouTubeにて一般の方もWeb版が一部視聴可能。

今後の取組

今後は産休・育休取得中の従業員がコロナ禍でストレスをためないようシステムを使って循環的にコミュニケーションをとったり、健診データをより細かく分析できるようにしたり、DXを組み合わせた取組を行っていきたいです。(※「従業員の健康支援に取り組むことになったきっかけ」健康診断結果を電子データ化 参照

取り組もうとしたきっかけは何ですか。
また、一般事業主行動計画に「健康経営」について記載した理由を教えてください。

従業員の健診データを徹底分析し始めた頃は、女性の健康が注目されるようになった時期だったので、女性の健康に関する一般的なデータが入手できるようになりました。社内アンケートの結果と比較したところ、結果で悩みを抱えている女性社員が多いことから、女性の健康も健康経営の取組みの一つとして背骨としました。

健康経営宣言を組み立てる際には、経営トップに分析結果を提示して健康診断やストレスチェックの結果に課題があることを示し、細かくやり取りをしました。

健康の行動指針を従業員の行動指針に則って作り、経営トップと全社の説明会の中で掲げたのが始まりです。

女性が活躍するためにはセルフケアや健康意識を持つことはもちろん、性別に関わりなく健康に活躍できる職場の土壌が必要です。

女性活躍については人材開発の部署がありますが、健康については健康推進室があるわけでなく、担当2人だけでやっています。人、予算が潤沢でない中で、草の根的に続けている活動です。「ありがとうございます。良かったです。」といった社内の反響を受けて続けてきました。

取組の中で工夫されたこと、大変だったことを教えてください。

研修後の効果確認

研修後には女性従業員にアンケートを取り、現在の状態、気持ちの変容、行動変容を確認しています。アンケートに答えた人のほぼ100%が「理解して(今後の)行動につなげられる」と回答してくれています。より多くの従業員に見ていただけるよう、周知・啓発していきたいです。

意識的なストレッチの導入

ストレッチができる短尺動画を自社制作してオフィシャルYou Tubeで展開しています。
これを機に活用してもらえるよう、拠点によっては決まった時間にサイネージに動画が流れるようにして、ストレッチタイムを作っています。また、オンライン打合せの前や会議の合間、衛生委員会が始まる前、定期的に行うキックオフミーティングなどでもストレッチをするよう習慣づけて、体を動かす機会を設けています。

ストレッチ動画 ストレッチをする様子

男性上司の研修参加への声がけ

女性活躍推進を掲げる中で、今後、女性の部下が増えていくので、男性上司へも研修参加の声がけをしています。女性の参加者が大半を占める研修に参加するのが恥ずかしいという雰囲気がありましたが、オンラインでも受けられるようにしたり、「奥さんや娘さんの具合が悪いとき、何をしてあげられるでしょう」と促したところ、参加してくれるようになりました。配偶者の病気が従業員のメンタルに不調を来す要因となる事例は多いようです。企業理念に「従業員と家族の幸福」を掲げているように、女性従業員だけでなく、従業員の家族も含めた女性の健康として発信しています。

上司に理解があるだけでも、生理休暇などが申し出しやすくなるのではないでしょうか。男性上司も研修に参加してもらい、申し出しやすくなる風土ができていけばいいなと思います。

従業員に対する健康支援について

従業員(男女問わず)の健康支援のために取り組んでいることは何ですか。

社内イントラへのコラム掲載

ヘルスリテラシー向上のための社内イントラへのコラムは2週間に1回のペースで4年間続けています。続けていく中で、レシピや日々の生活の中に取り入れられるちょっとした工夫など気軽に取り組めるトピックの反応がいいことがわかってきたので、興味関心を引くトピックを選んでいます。また、ストレスチェックの後にはメンタルに関するコラム、3月の女性の健康週間には女性向けのコンテンツを選ぶなど、時期に合わせたテーマを選びます。

コラムは産業医や有識者の先生に書いていただきますが、自分で書くこともあります。興味を引くリード文を考え、見やすく整えたり、バナーを作ったりと読んでもらえるように工夫をしてきた結果、閲覧数は始めた当初より4倍に増えました。

ウォーキング・コンペ

ウォーキング・コンペの開催も4年間続けている取組です。予算をかけずにやっている活動ですが、従業員同士で声をかけあって、クチコミで広がり、たくさんの方が喜んで参加してくれています。

従業員の運動習慣に関する数値が一般のデータより低かったので、より多くの人に参加してもらい、全社的に運動量が上がるように試行錯誤しました。当初は個人戦のみでしたが、昨年からはチーム対抗戦を取り入れ、競い合っています。スマホのアプリを使って事前に登録し、歩数計で競います。任意で参加を募ったところ、従業員が声をかけあってチームを作り、83チームの参加がありました。開催期間は1カ月ですが、その後もアプリでの歩数はカウントされるので、開催期間後も、「歩数を確認する習慣がついた」、「イベントが終わっても歩数計を見ながらバス停一つ歩いている」、というコメントを複数の参加者からいただいており、運動習慣は年々向上しています。

ウォーキング・コンペ実施後の参加者アンケートでは、「職場のコミュニケーションが増えた」という回答が最も多かったです。当初は個人戦だけでしたが、イベントを通じた一体感はストレスの緩和になると聞いたことがあったので、昨年からチーム対抗戦を取り入れました。とても盛り上がり、職場の一体感が醸成されました。

ベストプラクティス事例

「あなたの部署の健康活動」を募集して社内報で展開しています。

従業員が自発的に案を出し、他の従業員に良い影響を与えている事例があります。全社で提供するより説得力があり、受け入れられやすいようです。

事例:

  • ピラティスの資格を持っている従業員が、ボランティアで従業員向けにピラティス講座を行い、従業員自ら運動機会を提供した。
  • オフィスの模様替えの際に懸垂できる棒を作った。
  • 福岡の女性のプロジェクトチームが健康診断の見方を作成し、それを見た女性従業員が自発的に子宮がん検診に行った。 など
ヨガの様子 ヨガの様子2
どんな効果がありましたか。

健康診断結果のデータ分析を始めてから3年目で、数値の改善が見られました。

健康診断の結果を分析して、前年より悪いと枠を赤で示していますが、2018年から2019年は全部の項目が真っ赤でした。それが2020年には赤が数個程度に減り、2021年は赤が1、2個になりました。

従業員が高齢化しているので、どんな取組をしても健康診断の結果など良くならないという見方もありますが、最初に諦めてしまっては始まりません。草の根的に取組を続けてきた結果、3年目で変化がありました。

取組の中で最も効果的だったと感じるのは、従業員のヘルスリテラシーを向上させる取組を継続的に行ってきたことです。健康クイズを作ったり、広報に頼み社内報に載せたりと、できる範囲で粘り強く行ってきました。拠点責任者向けの説明会を開いたり、人事本部長に全社会議で周知してもらうなど組織にもアプローチしました。セルフケアの大事さや、病気・突然死のリスクを伝え続けてきました。

今後の課題や展望があれば、教えてください。

展望

取組は今年で4年目になります。今年はより多くの従業員を巻き込み、健康意識の醸成につなげていきたいと思います。従業員同士でピラティスを教えあった事例のように、草の根的に活動の根を広げていきたいです。

トップにもメッセージを発して、巻き込んでいくことが必要だと考えています。上席が変わった際には、最初にデータを示し、説明するところから始めます。数値が改善されたことを示すことでマネジメントの理解を得ながら、健康支援活動の予算をつける努力をしています。

課題

私自身、病気で半年休んだことがあり、福利厚生の私傷病欠勤制度(給与が満額補償される)を申請しました。ただ、テレワークなどの制度を活用すれば休まずに両立できたかもしれないと、今では思っています。

女性のキャリアの形成と育児の両立は浸透してきていますが、病気と介護についてはまだまだ発展途上なところがあり、制度も取りづらいです。また、休むという選択肢は福利厚生で選べますが、仕事と両立するための情報はなかなか得られず、苦労しました。

病気、介護の経験を経て、治療と両立コーディネーターの研修を受け、キャリアコンサルタントの資格を取りました。相談を受けると自身の経験からもアドバイスをしていますが、しっかりとした相談窓口はまだないので、個別性の強いアプローチはできていません。従業員も高齢化していっているので、病気、介護と仕事の両立というのは今後の課題です。

これから女性の健康支援に取組もうとしている企業に、まず何から始めたらいいか、アドバイスがありますか。

我が社の場合、従業員に対して「現状はどうですか。」と事前アンケートをとったことが良かったと感じています。大々的に始めるのではなく、従業員の声を聞くところから始めると共感を得ることができ、アンケート結果は企画をする際の後ろ盾になりました。まずは従業員の健康状態や健康に対する意識を把握し、どのように改善が必要かを検討した上で改善に向けた取組を企画する、企画をやった結果こういう波及が生まれた、というPDCAサイクルをうまくまわせたと思います。