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合同会社ミーシャ 代表社員 小畑 泰子 これからの母性健康管理の在り方について

 私は、縁あって、15年ほど母性健康管理に関する委員会「女性の身体と心を考える委員会」や「妊娠出産・母性健康管理サポート」サイト内のメール相談に関わらせていただきました。自身も4人の子育て中だったこともあり、産業保健の専門家というよりは、「妊娠・出産・育児と仕事との両立」というある意味永遠の課題に直面している当事者でもありました。

 近年、母性健康管理に関しては、法の整備がなされ、社会的な関心も増え、理解も進み、職場でもさまざまな対応が取られるようになってきています。産婦人科の医師達の中にも、妊娠中の女性の生活や仕事等についても関心を持ってくださる方が増えてきたように感じます。私が関わった15年間でもそのような世の中の「流れ」や「変化」というものを感じました。その一方で、依然として職場や家族の理解が無く、苦しく悲しい思いをしている女性労働者がたくさんいます。以前のこのコラムにも掲載させていただきましたが、「仕事と家事・育児の両立」は困難で大変奥の深い課題だという思いは変わりません。

 メール相談でも、職場の無理解や周囲の心無い言動により悩んでいる女性労働者からの声が多数寄せられていました。その一方で、制度や支援が整ってきたからか、新たな問題として、本人よりも周囲が困惑するというケースも増えてきているようです。「法律で認められている、制度があるのだから、何とかしてもらうのが当然!」というような声もきかれることがあり、とても残念です。このような考えを持つ一部の方のために、他の多くの女性労働者が肩身の狭い思いをしているという実態もあるのです。妊娠中や育児中の女性を職場のみならず社会全体で支援していくことは大切であり素晴らしいことだとは思いますが、そのために周囲が負担を強要されるようなやり方はよくありませんし、長続きするはずがありません。制度の整備や職場側の努力、社会的支援等に頼るだけでなく、女性労働者側も自らが妊娠・出産・育児と仕事の両立のために努力するべきだと思います。

 そして、どんな立派な制度や法律を作っても、それが運用されなければ、守られなければ全く意味がないのです。たとえば、夫(パートナー)の育児参加もそうです。男性の育児休業取得率を上げることを課題とし、企業ではさまざまな取組もなされていますが、なかなか上昇してこない、取得しても数日程度にとどまっている、というような実態があります。それはなぜなのかということを考えなければならないのです。男性の場合、制度はあっても育児休業を取りにくい雰囲気がある、ということはよく言われますが、それだけが理由ではないはずです。夫が育児休業を取ることに意味を感じていない場合もあれば、妻も望んでいないというケースもあるでしょう。そもそも、育児休業を取得した夫は育児に協力的で、取得していない夫は非協力的と言いきれるものでもないのに、取得率の上昇だけが独り歩きすることに違和感を覚えます。私としては、自身の経験上、育児休業や育児時間、看護休暇は、夫(子供の父親)だけでなく、子供の祖父母等が取得できる制度を設けることも検討してほしいと考えています。

 これからの母性健康管理対策に必要なことは何なのでしょうか。妊娠の経過も、出産スタイルも、仕事を続けるか辞めるかも、育児方針もみな違います。それを同じ制度の下、「〇〇するべきだ」という押し付けはやめましょう。長時間労働や少子化対策として、「働き方改革」などとも声高に言われ、時間外労働の規制や週休3日制の導入など各企業いろいろな工夫を始めていますが、皆にとって「改革」になっているのかは疑問です。個人個人の事情により、それぞれが自分に合った選択が可能で、家族、職場、地域などがサポートすることができるような社会であってほしいです。

 今の母性健康管理に関する法制度では、主に妊娠中や未就学児がいる時期がターゲットになっています。確かに、人生の中で妊娠・出産・子育てをする期間は限られています。しかし、育児は子供が成人するまで続きます。近年では、生涯未婚率も増え、たとえ経済的に自立し、物理的に離れていても、親の立場からみれば、子育てはいつまで続くのか、終わりのない悩みがあります。また、個人の立場からみれば、育児にひと段落しても今度は介護の問題や自身の病気の問題などが出てくるケースも多くなっています。昨今がん患者の就労の問題が取りざたされていますが、これも個々のケースで異なった対応が必要であり、本人としては「治療と仕事との両立」、「自分の働き方」を考え、職場は「就労環境の整備」や「配慮」を考えるきっかけになっていたりもします。

 このように考えると、職場における母性健康管理の課題は、その時期だけの問題ではなく、一人の労働者の人生、ワークライフバランスの中で考え、議論していくべきだと思います。社会人となり、就職後、結婚を機に離職することを考える人もいますが、多くの女性にとって、妊娠や出産という出来事は、仕事を継続するのか否か、継続するにしてもどのような形で働きたいか、自分はどのような子育てをしたいのか、などを意識し、悩むおそらく最初のきっかけになるでしょう。その時に困惑しないように、自身の人生設計を就労前や就職後の早い時期からしっかり考えておくことが大事であり、学校や家庭、職場でもそのような教育の場、機会をもっと増やしていくべきだと思います。

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